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浦澤直樹の駆け出し時代 出版社の談話室で漫画描いた思い出

 8月24、25日の2日間で8000人ものギャラリーが集まった、人気漫画家による小学館ビルの落書き。その舞台となった小学館本社ビルは、1967年に建てられ、通称『オバQビル』と呼ばれていた。

 その理由を『オバケのQ太郎』の生みの親・藤子不二雄Aさんが語る。

「あの頃、少年サンデーで描いた『オバケのQ太郎』がヒットして、そのタイミングでビルを建てたから、『オバQビル』と呼ばれてねえ。非常に名誉なことです」

『オバQビル』はその後、46年にわたって漫画家たちの喜怒哀楽の舞台となっていく。

 今年で漫画家デビュー30周年を迎える浦沢直樹さんにも、いくつもの忘れられない出来事がある。

「大学生だったぼくは、小学館の入社試験を受けるために『オバQビル』に行きました。そのとき、趣味で描いていた漫画の原稿を持ち込んでみたんです。そしたら編集者が見てくれて、新人賞に出してみないかと言ってくれました」(浦沢さん)

 その作品は新人賞を獲得。それが、浦沢さんの漫画家人生のスタートとなった。

 駆け出し時代、このビルに泊まり込んで漫画を描く“缶詰め”も経験した。

「談話室といって自動販売機の置いてある場所でやってたから、別の編集部の人から“おお、浦沢くん、ちょうどよかった。ちょっとここにイラスト描いて”なんてよく頼まれました。『女性セブン』でも、崖崩れの現場のイラストを描きましたよ。それで1万円もらって、“やったー!”って喜んでましたね(笑い)」(浦沢さん)

 今や超売れっ子漫画家となった浦沢さんにとって、このビルは“特別なもの”だという。

「今、ぼくがこうして漫画家でいられるのは、あのビルの中で起きたいろんなことがあったからです。『オバQビル』は、人生を大きく変えてくれた建物です」

 浦沢さんだけではなく、落書きに参加したすべての漫画家が同じ思いを抱いている。

 落書きのなかには、こんな言葉が添えられているものもあった。

<階段にや、ネーム(※絵コンテ)が通らなくてハラだちまぎれに殴ったオレの血がついてるぜ。ゼッタイ>(『うしおととら』・藤田和日郎さん)

<10年前、「ネームができるまで帰らない!」と言ってこの小学館ビルに5泊しました。(中略)「青木さん、住んでるの?」ときかれました。私の青春です>(『カノジョは嘘を愛しすぎてる』・青木琴美さん)

<ネームしに来てましたよ。やりなおしばっかりでした>(『7SEEDS』・田村由美さん)

『週刊少年サンデー』や『ビッグコミックスピリッツ』『フラワーズ』など、多くのコミック編集部が入った小学館ビルはまた、多くの漫画家の汗と涙とド根性の数えきれない思い出とともにあった。

※女性セブン2013年9月19日号

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