「国民魚」であるマグロの漁獲量が激減している。なにが原因なのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が「マグロを救え」と訴える。
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ようやく水産庁が水産物の管理強化に乗り出した。今年絶滅危惧種――レッドリスト入りしたニホンウナギや、この50年で漁獲量が13万トン→2.3万トンと2割以下に落ち込んだクロマグロなどに対して漁獲量の制限や、販売、仕入先管理の徹底に取り組むことになったのだ。
マグロの漁法には、はえ縄、底びき網、サオ釣りなど、いくつか種類がある。なかでも巻網はマグロの大きさを問わず、とにかく網にかけて水揚げしてしまう。もう数年待てば数百kgに育つ可能性がある幼魚をも、巻網漁は獲ってしまうのだ。しかもこの巻網漁が1980年代以降急激に増え、現在ではマグロの全漁獲量のうち約6割を占めるようになってしまった。サイズの小さい幼魚が獲れる巻網の水揚げなのに、だ。
さらにクロマグロの水揚げのうち、98.8%は産卵期を迎える前の3歳以下のメジマグロだという。漁獲量が激減し、産卵前の未成魚が乱獲される。自主規制が機能しないのだから当然、法規制が必要になってくる。一部の巻網漁を守るために、クロマグロという資源を枯渇させ、全国の漁師を干上がらせていいという理屈は通らない。
そもそも境港がマグロを売りにし始めたのは、ここ10年ほどのことだという。それ以前に獲っていた魚種が獲れなくなり、マグロの世界的な産卵場が近いからと、境港からマグロの通り道に向けて、巻網船が出航するようになったというのだ。以来、「マグロが減った」と各地から声が上がっている。マグロは日本列島を軽く縦断するほどの遠泳者だ。
地元からは、因果関係が定かではないという声もあるが、絶滅が危惧されるウナギも同じ道を通ってきた。確証を得られた頃には手遅れで、もはや待ったなしなのだ。漁業補助金など活用できるものはすべて活用して、法制化を進め、「国民魚」であるマグロ資源の管理に全力で臨むべきである。
今年の6月、日本経済新聞に「余るクロマグロ」という見出しの記事が踊った。境港での初水揚げは去年の3倍量という豊漁だったが、築地に送られたマグロのうち、2/3のマグロにはセリで値がつかなかったという。
8月に行われた太平洋クロマグロの資源管理に関する会議では、水産庁が全国の漁業関係者数百名に向けて「メジを食べるのはやめましょう」と訴えかけた。我々消費者も、市場が望んでいない品種だということを伝えるべきではないか。和歌山県の近畿大学水産研究所や長崎県、鹿児島県などでは、養殖の研究が進んでいる。9月上旬に行われれた、「中西部太平洋まぐろ類委員会」で資源管理への道筋も見えてきた。加えて、買い手がいないということもひとつの圧力にはなる。
これから先もうまいマグロを口にするためには、我々消費者の意識にも変革が必要だ。ちなみに本当に味の乗ったうまいホンマグロが出回るのは冬。そもそも旬でもない夏に、未成熟なメジマグロを食べるのはいかがなものか。そんな道理は通らないし、粋でもない。旬を味わう楽しみを知る人は「春キハダ、夏ミナミ、秋メバチ、冬ホンマグロ」なんて呪文を唱えながらマグロの種類をも回遊する。さあ、いよいよ食欲の秋がやってきた!