楽天やユニクロを展開するファーストリテイリングが英語を社内公用語とし、ソフトバンクがTOEIC900点を獲得した社員に100万円の報奨金を支給するなど、社員に高い英語力を求める企業が増えている。こうした状況を背景に拡大を続ける語学ビジネス市場。従来の英会話教室に加え、スカイプなどを使う“格安”オンライン英会話も数年前から注目を集めている。最近では、お酒を飲みながら気軽に英語を学ぶ教室も登場した。
東京・恵比寿の英国風パブ「HUB」では、英会話教室を運営するワンナップ英会話と合同で、定期的に英会話教室を開いている。お酒を飲みながらではあるが、約2時間、参加者をレベルごとに分けてディスカッション形式でレッスンを行う。英会話教室の生徒でなくても通える敷居の低さが受け、毎回、ほぼ満席になるという。
日頃は自宅でオンラインで英語を学び、折に触れて上記教室に参加するという40代女性はこう話す。「英会話カフェもいいのですが、ただ英語を話すだけではなく、レッスン形式なのがいいですね。自分の得意ではない話題についても話さなくちゃいけないので学びがある。それから、外国の雰囲気を感じられる場に身を置き、アルコールも入ると、気持ちが大きくなって、頭が英語脳に切り替わりやすいんです」
英語を話したい人が集う英会話カフェでも、アルコールの提供を行っているところもある。横浜などで英会話スクールとカフェを展開する「G-FLEX CLUB」は、毎週土曜の夜をバータイムと位置付け、フリートークを楽しむ場を提供する。今年4月、東京・下北沢にオープンした英会話カフェバー「LanCul」は、飲みながらコミュニケーションを楽しみ学ぶ場として、本格カフェ&バーの提供を前面に打ち出した。会社帰りの一杯を兼ねて立ち寄れる場として30代男女を中心に人気を博し、利用者を増やしているという。
矢野経済研究所の調べによると、2012年の語学ビジネス総市場規模は前年度比102.7%の7892億円だった。とりわけ外国語教室やe-learning分野の需要が活発化していると分析しており、2013年度は前年度比104.3%の8230億円と予測、さらなる拡大が見込まれている。お酒を片手にほろ酔いで学ぶ教室の増加も、英会話ビジネス拡大に一役買っているようだ。一方、学ぶ側にとっても酒の効用はあると語るのは、英会話セミナーを開催する英会話講師で『英語が2日でスラスラ話せる 1秒英会話』の著書もある大橋健太氏だ。
「英語を話せない日本人の一番の要因は、間違えたら恥ずかしいという“恥”の意識だと、生徒さんを見て感じています。英語において正解は一つではないのに、長年の学校教育で点数を付けられてきた結果、間違えたらどうしようと萎縮してしまうんですね。恥の意識を少しでも取り払う手助けとして、お酒はとてもいいと思います。ほろ酔いの状態だと、新しい語彙や知識の習得は難しいかもしれません。ただ、知識は十分にあるのに話せない人が多いんですね。そういう人の課題はコミュニケーション能力。お酒によってコミュニケーションが円滑になると期待できます」
また、酒の場での何気ない会話は、ビジネスにおいても役立つと指摘する。
「会議やプレゼンは通訳を付けたり事前準備によって乗り切ることができる。問題は、その後の食事の席だ、というようなことを仰るビジネスマンが増えています。たとえば海外の学会に出席されるお医者さんは、学会発表は何とかなると言うんですね。専門用語は日頃から勉強しているから理解できるし話せると。けれど、その後食事に行ったとき、友好関係や信頼関係を築くような会話ができない。趣味や最近の社会情勢などに関する会話ができないと、取り残されていくと感じるそうです。それを身に着けるためにはやはりコミュニケーション能力を高めなくてはいけません」
ただし、過ぎたるは及ばざるがごとし。「講師にもいろんな方がいます。英語の緊張感をほぐす程度のお酒はよいですが、健全なコミュニケーションが取れなくなるほど飲んでは本末転倒」と、大橋氏は飲みすぎには注意を促す。
職場での飲みニケーションが廃れつつある昨今。グローバル化の進展とともに英語での飲みニケーションという新たなジャンルが定着するか。