日本ではアベノクミスの行方が注目されるが、中国では官製デフレが進行しつつあるという。中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏がレポートする。
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習近平指導部の打ち出した目玉政策である「八項規定 六項禁令」、俗称「ぜいたく禁止令」がボディブローのように中国経済を苦しめている。
国酒とされる茅台酒(まおたいしゅ)は対前年比でわずかに3.6%の伸びにとどまり、プラス50%であった前年から大きく落ち込むことになった。茅台酒メーカーの業績が発表されると株価はストップ安となり、2日間で株価総額が170億元も失われるという事態にも陥った。この惨状を受けてメディアは高級酒市場の変化を一斉に報じている。
高級酒の価格が上海の店頭での表示は500mlで1588元だが、その下の「現価」という表示では1298元となっていて実際には2割ほど値を下げていることが分かるのだ。五糧液は同じく1109元が850元にまで値を下げているのだ。月に10万元の売り上げが見込めたが、いまはせいぜい5、6千元しかないと答える酒店店主の言葉を紹介するメディアもあった。
ぜいたく禁止令の影響は高級酒にとどまらない。官僚たちに公金による宴会を禁止したあおりを受けて業績が落ち込んだのは高級レストランチェーンで上場企業の湘鄂情だ。こうしたレストランはいま低価格化への努力を始めており、なかにはファーストフード店としての再生に踏み切ろうとしているところもあると伝えられ、北京ダックの老舗である全衆徳でさえそうしたレストランの一つに数えられるという。
中国で生き残るためには“政治の風”を読むことが必至という教訓を噛みしめる時代が再びやってきたということなのだが、それにしてもデフレの脱却が大きな課題だった日本に比べて官製のデフレをやってのける中国のその意図を日本人は容易には理解できないはずだ。ただその狙いが不満層の人気取りと聞けば納得もできるのではないだろうか。
結局、経済を冷やしても「役人いじめ」を政治が演出する構造は、日本とも共通する話なのだから。