旧日本軍が性処理のために朝鮮人女性を「強制連行」した──韓国をはじめ世界ではそう信じられているが、それを示す史料は存在しない。では、なぜそんな話が広まったのか。
残念なことに、最初に「軍による強制連行」を言い出したのは日本人だった。1983年、元兵士・吉田清治氏が著書『私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行』(三一書房刊)の中で、軍令により韓国・済州島で女性を慰安婦にするために拉致したと“告白”した。
先に結論を述べると、この吉田証言は創作であることが明らかになっている。現地紙『済州新聞』の追跡取材で住民は吉田氏の証言を否定した。
しかし、その吉田証言をもとに追及キャンペーンを展開したのが朝日新聞だった。1991年8月11日、<元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀 重い口開く>という記事で元慰安婦が軍による連行を証言したと報じたが、吉田証言を土台にした誤報だ。
この時に名乗り出た元慰安婦・金学順さんは韓国メディアの取材などに「母親に40円で女衒に売られた」と語っている。
これらの経緯は小学館『SAPIO』編集部がまとめた新刊『日本人が知っておくべき「慰安婦」の真実』に詳しいが、「軍による強制連行」と「売春業者が娘を買った」では話がまったく違う。悲しいことに戦時中の日本で売春は合法だった。
そして、現代の価値観では絶対に許されないが、各国の軍隊が売春業者に性処理の仕組みを作らせていた。戦後、進駐した米軍も日本人女性に性処理をさせた。にもかかわらず日本が世界中から非難されるのは「軍による強制連行」があったと誤解されているからだ。
吉田氏は1990年代後半になって自らの証言が創作を交えたものだと認めたが、朝日新聞は先述の誤報を訂正していない。そして朝日新聞が広めた吉田証言は、国連人権委員会などで強制連行の証拠として採用された。
誤りを訂正しない朝日新聞や左派知識人が、吉田証言に証拠能力がないとわかり、言い出したのが、「広義の強制」である。軍は直接手を下していないが、本人の意に反して戦地に行ったことは日本政府に責任がある、という拡大解釈だ。そして「軍の強制連行」を信じる人は今も世界中にいる。
慰安婦問題にはとかく誤解が多い(「日本政府が謝っていない」という主張はその典型だ)。慰安婦のような存在を二度と生み出してはならない。だからこそ、証拠に基づく冷静な議論が必要だ。
『日本人が知っておくべき「慰安婦」の真実』では識者が丹念に史料をめくり、複雑な問題を丁寧に解説している。そうした議論に目を通し、反論すべきは反論するのが、日本人として真に「歴史と向き合う」ことではないか。
※週刊ポスト2013年9月20・27日号