“原田神話”の終焉が近づいている。2004年から原田泳幸(えいこう)氏(64)が率いる日本マクドナルドの2013年1~6月期決算が8月9日に発表され、売上高が前年同期比11%減の1297億円、営業利益が同41%減の70億円と前期(2012年1~12月)に続き減収減益に陥っていることが明らかになった。
これを機に、社長とCEOの座は、カナダ出身のサラ・カサノバ氏(48)に明け渡した。親会社の日本マクドナルドホールディングス会長兼社長兼CEOなどには引き続き留まる原田氏は、今回の人事を「マネジメントの強化」と言うが、業界では「原田氏は年内にもマックと縁を切るのでは」と囁かれている。“デフレの勝者”が“アベノミクスの負け組”に―一体、何が起こっているのか。
原田氏と言えば、2004年に日本マクドナルド(以下マック)のトップに就いて以来、「メイド・フォー・ユー(作り置きをせず、注文を受けてからの調理)」、「100円メニュー」、「メガマック」などの高級商品、店舗の24時間営業など、次々に話題を呼ぶ奇策をしかけて成功させ、経営を立て直してきたことで知られる。なかでも、2008年に始めた「プレミアムコーヒー」を100円で提供するという戦略は、喫茶の需要を大きく取り込むことに成功した。
そんな順風満帆の原田氏に迷いが見え始めたのは、既存店売上高がマイナスに転じた昨年後半。それは11月の記者会見のことだった。成長戦略を30分ほど語った後、突如、こんな言葉を続けたのである。
「社長就任9年目、これまで常に先を見通して改革を推進してきました。ところが、何と今年、その予見の精度が狂ってしまった」
会見場はざわめきたった。
もちろん原田氏は、そこで手をこまねいているわけではなかった。2013年1月には、注文した商品が1分以内に用意できなければ、顧客に無料券などを提供する「60秒チャレンジ」、新成人へのビッグマック無料提供を行ない、7月には1日限定の1000円ハンバーガーなど、原田氏肝いりの販売戦略を展開した。さらに候補者を激励する党首よろしく直筆で「掟破」と記した檄文を店舗などに配布したとも言われている。
ところが結果は、二期連続の減収減益となる。
なぜ千里眼は曇ったのか。それは外食産業の激変に付いていけなかったという側面が大きい、と外食ジャーナリストの中村芳平氏はいう。煎じ詰めていえば、マックのライバルは他のファストフード店だけではなくなったということだ。
「今の日本の外食産業は、全ボーダーレス化しています。居酒屋はお酒を飲まない客を取り込み、逆にファストフードがビールを出したりする。特にコンビニは動きが速く、店内にイートインのスペースを設けています」(中村氏)
低価格コーヒーもしかり。
「マックは4年間で10億杯のコーヒーを売りました。ところが後追いで今年始めたセブン-イレブンはもう1億杯を突破している。ほかのコンビニも同様のサービスを始めており、マックへの喫茶ニーズも吹っ飛びかねない状況です」
一方、経済評論家の平野和之氏は、アベノミクスの影響を指摘する。
「アベノミクスの円安傾向はマックにしてみれば逆風でしかない。輸入物価指数は20%近く上がっています。単純に円安になった分、原価は上がっていく。もともと薄利多売だっただけに戦略転換が求められます。
つまり主力製品は利益の大きい付加価値の商品に転換しないといけませんが、そこに上手く対応できなかった。マックも高級路線を打ち出すなど試行錯誤しましたが、所詮は線香花火。キャンペーン期間だけはオーダーされるが、全体の集客力の底上げには繋がらなかった」
スーパーやコンビニがPB(プライベートブランド)商品であくまで“お買い得商品”の開発に拘ったのに対して、マックは中途半端だった。
100円メニューで顧客を掴み、デフレ時代を先行していたマックは、アベノミクスのこのご時世には、周回遅れになりつつある。
※週刊ポスト2013年9月20・27日号