「お・も・て・な・し」。滝川クリステルさんの五輪スピーチが話題だ。そこに込められた技術とはなにか。元仙台放送アナウンサーでプレゼン術などを大学などで教えているスピーチジャパン講師の早坂まき子さんが語る。
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滝川クリステルさんのスピーチには3つの特徴があると思います。
1)ゆっくりのおもてなし、と普通の会話スピードのおもてなしと2回言ったこと。
2)1回目は手の動き(ジェスチャー)をつけたこと。
3)2回目は、手を合わせておがむような、お辞儀をしたこと。
まず、「ゆっくり喋る」というスピーチ技術の「基本のき」を取り入れています。みなさんも、大切なことを伝えたいスピーチの相手が幼稚園児や耳の遠い高齢者などの場合、相手がしっかり理解できるように、ゆっくり噛み砕いた言葉で、丁寧に喋るはずです。今回のIOC委員は様々な国の方々であり、年代も異なるでしょう。すると、どんな人にでも伝わるように、ゆっくり喋るという技術を使うのは当然のこと。
そこにあえて普通のスピードの「おもてなし」を繰り返し2回言うことで聞き手に、
「この『おもてなし』というは大切なキーワードなのだな」
と、印象を残します。「おもてなし」を1回だけしか言わないスピーチと、2回言うスピーチ。心に残るのはどちらかは、歴然です。
さらに、「おもてなし」に合わせて、左手でつぼみのように縮めた形を作っています。あの手の動きも「おもてなし」という単語と共に、皆さん印象に残っているはず。簡単な動きなので、私も何人も真似している友人、知人に出会いました。真似しやすいですよね。
あの「お・も・て・な・し・」のときに手のジェスチャーがなかった場合を想像してみましょうか。滝川さんは、ずっとカメラ目線で、瞬きをせず、一点を見つめています。それは、カメラを通し会場の大きなスクリーンに映し出されるからなのでしょうが、一点を見つめたまま、手の動きがない「お・も・て・な・し」……動きがあったほうが、印象に残りませんか?
しかも手が加わることにより、5音から成り立つ単語であることも伝えています。日本人なら聞き慣れている「おもてなし」は、日本語が分からない外国の方からすれば「え?何?何言っているの?」と分からないはず。でも、手が加わることによって「5音から成り立つ良い言葉らしい」ということが、瞬時に伝えられます。
推測ですが、どなたかが、手を付けたほうが印象に残るだろうと、アドバイスされたのではないでしょうか。
2回目の「おもてなし」で両手を合わせて拝むようにお辞儀するのは、日本のマナーや慣習にないですよね。タイなどでは「こんにちは」などと挨拶の際に行う動きです。ネットでは「日本人の作法じゃない」という批判的な意見もありました。
でもあえて、あの2回目の通常のスピードの「おもてなし」の動きにも意味があるのでしょう。欧米をはじめ海外の方から見て、わかりやすいアジア人の立ち居振る舞いを体現したのがあの動きだと思います。
日本人からすると「ちょっとあれは日本人は普段しないかな」と違和感があっても、今回の目的はIOC委員に熱意を伝えるためのプレゼンテーションです。国語辞典にある「心をこめて客の世話をする」という意味がある「おもてなし」の単語とその意味を、いかにわかりやすく、表現するか、と熟考したうえでのジェスチャーと捉えられます。
ちなみにメジャーの川崎宗則選手も米国のテレビ番組に出演した際、両手を合わせてお辞儀していました。外国人にとって、日本人やアジア人らしい仕草と捉えられているようですね。
2回目のお辞儀をする動きも、動きがあるのとないのでは、全く印象が異なります。
あの滝川クリステルさんのスピーチの中の2回の「おもてなし」は「IOC委員をはじめ、全世界の人にいかにわかりやすく伝えるかを熟考し計算された上でうまれたプレゼンテーション」だと思います。