9月3日、五輪の開催地が決定するIOC総会の開催地・ブエノスアイレスに発つ前の安倍首相は、福島第一原発の汚染水漏出問題について、力強くこう話していた。
「政府が前面に出て、完全に解決していく」
そのための具体的な方策として、国が主導して約470億円を使い、原発施設の周りの土壌を凍らせて造る遮水壁の建設を前倒しにすることなどを発表した。
これでようやく汚染水対策は解決に向かう――そう安堵した人もいるかもしれない。しかし、東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋さんは「政府自体、この方策に自信を持っていないはず」と指摘する。
「政府内部から『効果があるかどうかはっきりしなくても、議論している場合じゃない』という声が出ていました。それでも発表せざるを得なかったのは、海外メディアが大きく報じるようになったから。五輪開催の障害にならないよう、8日の開催地決定を前に対策を発表して、やる気を見せる必要があったんです。
内容についても、いずれも事故直後から出ていたもので、目新しさも何もありません。いずれにせよ、東京五輪が決まったので、政府も本腰を入れた対策が迫られます」
連日、海外メディアで大きく報道された汚染水問題は、その内容も苛烈だった。
「この長引く漏出は、われわれが当初考えていたスケールより大きい。しかもまだ継続している」(『ニューヨーク・タイムズ』9月3日付)
「おそらく汚染水の最大の脅威は、日本政府である」(『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』9月5日付)
世界は、日本のメディア以上に事態を重く見、汚染水漏出の拡大を本気で恐れている。海外メディアに詳しい元NHKアナウンサーのジャーナリスト・堀潤さんは、こう語る。
「今回の汚染水問題を海外メディアが大きく報じているのは、汚染水問題の深刻さがわかったからではありません。ようやく本当のことを報じたのか、という日本政府や東電に対する怒りからです。ぼくは昨年1年間、アメリカにいましたが、メディアはずっと、海洋汚染の問題について報じていましたから」
堀さんがアメリカにいた当時も今も、海外の人から聞かれるのは、「なぜ日本は国際的なチームでこの問題に取り組まないのか」ということだという。
「今、必要なのは世界の英知を集めた汚染水対策。そうすれば、今はないイノベーションが生まれて、抜本的な解決に向かう可能性もあるのではないでしょうか」(堀さん)
それどころか実際は、情報公開を阻み、情報を小出しにして対策が後手に回る。いわば泥縄式の対策を積み重ねてきた末のこの事態。知れば知るほど怒りが湧いてくる。
『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)などの著書のある、元経産省官僚の古賀茂明さんは、国の姿勢を強く批判する。
「国は、最初に『東電をつぶさない』と決めました。東電と東電に融資した銀行を守るためです。どちらも経産省の大事な天下り先です。その結果、東電はお金がかかる根本的な対策をとれなくなります。なぜなら、お金をかけると債務超過となって破綻、つまりつぶれてしまうからです。
しかし、JALのように破綻させれば、東電は4兆円もの銀行への借金をほとんど払わずに済みます。その分、事故対策に使えますし、原発なしでも電気料金の値上げは必要ありません。福島事故収束のために『前面に立つ』と世界に約束した安倍総理は、今すぐ東電を破綻処理し、汚染水対策や廃炉に向けて、全力を挙げるべきです」
※女性セブン2013年9月26日号