原田泳幸(えいこう)氏(64)が率いる日本マクドナルドが二期連続の減収減益に陥った。これを機に、原田氏は社長とCEOの座を、カナダ出身のサラ・カサノバ氏(48)に明け渡した。今回の人事は「マネジメントの強化」とされるが、業界では「原田氏は年内にもマックと縁を切るのでは」と囁かれている。
合理主義を貫き、ムダを徹底的に排除する原田方式は現場への“しわ寄せ”をもたらし、社内では必ずしも支持されていないという。ある店長経験者は「内部では、原田さんをカリスマと思っている人は少ないと思います。現場の空気をまったく知らないまま、無理難題を押しつけてくる」と打ち明ける。
営業時間が24時間になった店舗では深夜勤務の人材確保も、衛生面の管理もすべて、現場任せだったという。それでも現場のスタッフがなんとかやりくりしてきたのは、売り上げという成果が出ていたから。だが、その唯一とも言える心のよりどころがなくなった今、原田神話と共に、日本マクドナルドの土台も揺らぎはじめている。
外食ジャーナリストの中村芳平氏によれば、原田氏が近年、最も力を入れてきたのは新商品開発や販促キャンペーンの見直しではなく、「直営店のFC化」だったという。
「直営を持たずに経費を減らして、FC店からロイヤリティという安定収入を得ようとした。仮にFC店が潰れたとしても本体は困らない。その判断は米国本社のマックのグローバル戦略の一環でもあり、将来的にみても間違ってはいないと思います。ただし、その切り替えが余りに急激だと日本のマックの遺伝子がどんどん弱くなってしまう」
実際、原田体制になって米国本社の影響力が増すばかりだ。今回、原田氏がCEOを譲ったのも米国本社の意向が働いた、と見られている。
後任として日本マクドナルドのトップとなったカサノバ氏は、マクドナルドのロシア1号店の出店を担当したマーケティングのプロ。日本のトップ就任に当たっては「海外で培ったグローバルな経験で、日本の事業を発展させたい」と語った。
要するに、原田氏が進めてきたグローバル戦略は変わらない。むしろ、強化される見込みだ。『外食日報』編集長の菅則勝氏は断言する。
「今回の人事異動は、日本マクドナルドを、世界のマクドナルドに取り込む総仕上げですよ。日本の経営スタイルは米国本社にとっては大きな障害物であった」
消費者である我々にとっては経営の主体が日本にあろうと、米国にあろうと直接は関係のない話かもしれない。だが、かつて日本マクドナルドの生みの親であり、伝説の創業者・藤田田氏が従業員たちに徹底させた「0円スマイル」にも陰りがさしつつある、とある店長経験者は嘆くのだ。
ではマックは今後どうすればいいのか。ある店長経験者はこう訴えた。
「奇をてらったことをするより、地道にやったらいいんですよ。もっと店ごとに地域に密着して、地元幼稚園と連携して園児のバースデーパーティをしたり、社会科見学的に、子どもたちにハンバーガー作りを体験してもらったり。急な成長は望めないかもしれませんが、そうすれば、『愛されるマック』として生き残っていけるんじゃないかと思います」
※週刊ポスト2013年9月20・27日号