「ごく少数の腐敗、堕落した幹部が関わった事件とはいえ、これは上海の法治と司法システムにとどまらず、上海市そのものを辱めた醜聞だ」。上海市トップの韓正・市党委書記は壇上から司法関係機関の職員に向かって声高に述べ、さらに続けた。「関与した裁判官たちは法と秩序を土足で踏みにじる真似をし、倫理と道徳を捨て去り、まさに無法な行為をした」。韓正が厳しく糾弾しているのは、全中国の耳目を集めた前代未聞の裁判官たちのセックス・スキャンダルだ。ジャーナリストの相馬勝氏がリポートする。
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事件のあらましはこうだ。上海市高等裁判所の裁判長・陳雪明、副裁判長・趙明華、王国軍、さらに高裁職員の不正を監視する規律検査委員会副組長の倪政文という4人の高裁幹部が6月9日夕、建設会社幹部の接待を受けて、市内のナイトクラブで酒を飲むなどしたあと、ホテルに移動し、高級コールガールをあてがわれた。
ミニスカートに胸元がはだけるセクシーないでたちの彼女たちは、陳らが待つホテルの部屋に一人ずつ消えていったが、数時間後に事が済んで一同がロビーに現われ、陳らが女性の胸元に金をはさむ破廉恥な場面を撮影した映像がネット上に出回ったのである。
ホテル内の監視カメラの映像をつなぎ合わせたもので、中国版ユーチューブといわれる「優酷(ヨーク)網」で映像が公開されるや、あっという間に大スキャンダルに。動画は7月28日から8月2日までの丸5日間で430万回視聴され、裁判官らを非難する書き込みが殺到。市政府も事件を無視できず、2日夕には裁判官らに免職、党籍剥奪などの厳しい処分を科した。
報道によると、この映像を暴露したのは裁判で「不公正な判決」を下され、自宅を売却処分にされた男性。彼は当初、これらの映像を警察に届けたが相手にされなかったためネットに公開したという。
そうした顚末が報じられると、ネット上では、「まさにお役所仕事だ。高級幹部は自分の利益を守るだけで、市民のことなど何も考えていない。習近平指導部は幹部の腐敗を厳粛に取り締まると言っているが、口先だけだ」などと、市政府ばかりか党最高指導部をも標的にして炎上した。
韓正は裁判官らを処分すると、その5日後の7日、市の司法関係者を集めた全体会議を開き、「我々はこの事件の劣悪な性質と甚大なる悪影響を深刻に認識し、反省しなければならない」と異例ともいえる自己批判を行なった。
もちろんそれには政治的背景がある。このセックス・スキャンダルは最高幹部やそのOBの元老たちが避暑を兼ねて集まっていた北戴河会議でも問題にされ、会議に出席していた韓正はその場でヤリ玉に挙げられた末に上海にとんぼ返りしていたのである。
※SAPIO2013年10月号