テレビゲームの元祖“ファミコン”が発売されてから30年――。近年、スマートフォン対応ゲームに押されて勢いを失っていた据え置き型の家庭用ゲーム機に、再び熱い視線が注がれている。
9月21日から一般公開される「東京ゲームショウ2013」(千葉・幕張メッセ)の目玉は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の『プレイステーション(PS)4』とマイクロソフトの『Xbox One』。いずれも来年に発売が予定されている新型の家庭用ゲーム機だ。
「ハイエンドのユーザーともなると、ひとつのハード機は5~6年で飽きてしまうので、いま売られている『PS3』(2006年発売)と『Xbox360』(2005年発売)の性能をさらに高めた後継機の開発は、サイクルから考えると遅いくらいだった」(業界関係者)
満を持しての発売だけに、ゲーマーたちの期待も膨れ上がっている。昨年にはひと足先に任天堂から『Wii U』も投入されていることから、ハードメーカー「三つ巴の戦い」の火蓋が切って落とされようとしている。
だが、どの新型機が市場を制するかを予想する前に、気掛かりな点は数多い。エース経済研究所アナリストの安田秀樹氏がいう。
「例えば、Xboxに採用されている『kinectセンサ』は、使用者の全身の動きから表情まで認識する高精細カメラで、新型機ではそれがさらに進化しています。そのようにハード機の性能がどんどん上がれば、ソフトの開発費も膨大になり参入メーカーが少なくなる恐れがあります。
いま、ソフトメーカーは大きなタイトルのゲームを作るのに、20億~30億円は最低限必要だといいます。それで採算を取ろうとすると、100万~150万本は売れないと厳しい。また、ソフトをそれだけ売るには、プラットフォームとなるハード機が全世界で500万~600万台売れていないと到達できないのです」
どんなに優秀なハードが登場しても、肝心のゲームソフトのタイトル数が少なければ何の魅力もない。鶏が先か卵が先かのジレンマに陥っているのである。
大手メーカーのコナミですら、「ドル箱ソフトであるサッカーゲーム『ウイニングイレブン』が新型機向けタイトルを発表していないのは、ハードの売れ行きが未知数で利益を見込めないから」(業界関係者)との噂が出るほど。それだけゲーム事業は巨額投資であることの証左だろう。
そもそもゲーム機本体の価格も、Xbox Oneの米国発売価格が499ドル(約5万円)、PS4も4万2000円程度と見られ、子供も遊ぶゲーム機としては高額だ。
「ゲーム機が爆発的に売れ出すのは、過去の定説からいえば2万5000円以下に値下げした後」と話す前出・安田氏の分析を総合すると、ハードの勝者ボーダーラインは<全世界で500万台以上の売れ行きと本体価格2万5000円以下の値下げ>が必須条件となろう。
次に、冒頭にも触れたように、スマホゲームに市場を奪われ、家庭用ゲーム機の潜在需要自体がなくなっているのではないかとの懸念について。
ゲーム業界団体のコンピュータエンタテインメント協会(CESA)の調べでは、2012年の国内ゲームメーカーの総出荷額は、2007年の2兆9364億円から減少を続け、2012年には半分以下の1兆2334億円にまで落ち込んでいる。
しかし、安田氏はこの点は心配ないという。
「スマホ一辺倒にユーザーが傾いているようなイメージがありますが、スマホで遊んでいる人は暇つぶしの要素が強い。本当に高性能なゲームを楽しみたい人は、出費がかさんでもハードとソフトを積極的に買います。
いちばんスマホゲームで成功したガンホーが『パズドラ(パズル&ドラゴン)』の新作をスマホでは1タイトルしか出さず、任天堂の『ニンテンドー3DS』に供給すると発表しているのも、まだハード機の需要があると踏んでいるからでしょう。スマホと家庭用ゲーム機は競合するものではなく、併存して伸びていくと思います」
では、いよいよ新型機の売れ行きを含めたハードメーカー3社の戦いの行方はどうなるのか。安田氏はずばり任天堂に分があるとみている。
同社は東京ゲームショウでは単独ブースは出展しないが、くしくも9月19日にファミコン全盛期を築いた“中興の祖”、山内溥氏(相談役)が死去したニュースが駆け巡ったばかり。
「今年に入ってWii Uの売れ行きが伸び悩み、苦境に陥っている任天堂ですが、業績がピーク時の3分の1になったのに赤字が300億円程度で済んでいるのは、山内さんの社長時代に培ったハードとソフトの両輪で稼ぐビジネスモデルが確立しているから。
新型ハード機はソフトのタイトルをどれだけ揃えられるかで勝負が決まると考えれば、自社でソフト開発も手掛ける任天堂がいちばん強く、次にマイクロソフト、そしてソニーが一番弱い構図です」(安田氏)
東京ゲームショウの今年のテーマは「GAMEは進化し続ける。」――。機能の進化はもとより、人間の進化した満足度をどれだけ高められるかの果てしない戦いは続く。