空前のヒットとなったNHK朝ドラ『あまちゃん』。なぜかくも多くの日本人が夢中になったのか。評論家・宇野常寛氏が論考した。
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「あまちゃん」について語るべきことはあまりにも多いのですが、ここは編集部のオファーにしたがって昨今のアイドルブームとの関係に絞って考えてみましょう。
ヒロイン・アキの母親である春子は80年代のアイドルブームにデビューを目指して故郷を捨てて上京し、敗北した過去があります。春子の上京とその失敗は劇中で常にあの頃に日本社会が見ていた甘い夢と、バブル崩壊後の挫折に重ねあわされている(たとえば春子が上京に使った架空のローカル線北三陸鉄道は当時の地方発展のビジョンと現在過疎に苦しむ地方の象徴になっている)。
そして「あまちゃん」はその娘のアキが現代のアイドルブームを背景にデビューしていく物語です。アキの参加する「GMT47」というグループのモデルはむろんAKB48とその影響下にある地下アイドル群です。初期AKBやこれらの地下アイドルは春子の時代とは異なり、テレビではなく劇場や握手会場などの現場+ファンのインターネットでの発信で盛り上がっていくのが特徴です。
そして各都道府県を代表する地元アイドルを集める企画である「GMT47」は同時に朝ドラそれ自体の比喩でもある。要するにテレビの時代を代表する「朝ドラ」は、テレビの斜陽とともにこれまでのやり方ではキツい。でも、現代のアイドルブームのようなネット時代のあたらしいやり方でなら復活できるのではないか、というメッセージがここにはあるように思えます。
テレビが全国のお茶の間を結び、社会を一つにしていた時代(春子の時代)は20年ほど前からゆるやかに解体し、今の(アキの時代の)日本社会はばらばらです。それをどうやってつなぎ直すのか、「朝ドラ」をいかに再生するのか、「あまちゃん」の裏テーマだと僕は読んでいます。
ただ一点だけ残念なのが、その現代ならではの「つながり」方の表現(現代のアイドルブームの描写)が取材不足のせいか少し甘いのが画竜点睛を欠いている点でしょうか。たとえばアイドルファンの描写はかなり古いステレオタイプに基づいている。あと、アキたちの先輩アイドルがスキャンダルで失脚する描写がありますが、実際のAKB48総選挙ではスキャンダルを逆手にとって話題を集めたメンバーがトップに君臨してしまっている。「事実は小説より奇なり」、あれは今いちばん面白いフィクションの「あまちゃん」が今いちばん注目されている現実(現象)であるAKBに負けてしまった一瞬だと思いました。
しかし現代的な文化や風俗を取り込みつつもここでやりすぎずに、新しすぎずに、昭和を生きた日本人にもなじみやすい描写にうまく軟着陸していくのが「あまちゃん」ヒットのポイントのようにも思えます。この物語は夏と春子、春子とアキといった母娘の象徴する世代間断絶を埋める物語でもありますからね。今後が楽しみです。
●うの・つねひろ/1978年青森県生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌『PLANETS』編集長。著書に『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、共著に『AKB白熱論争』(幻冬舎新書)など。
※週刊ポスト2013年9月20・27日号