1983年(昭和58年)から1984年にかけて放送され、平均視聴率52.6%という記録を残し、まさに国民的番組となったNHK連続テレビ小説『おしん』。この作品の脚本を手掛け、『おしんの心』(小学館)を上梓した脚本家・橋田壽賀子さん(88才)が、『おしん』への思いを語る。
「あれから30年がたって、今再放送されているのを見ると、本当にこの私が書いたのかしら、と思ってしまうのです。あれほどの大作は、もう二度と書けません」(橋田さん・以下「」内同)
明治・大正・昭和を生きた女性の生涯を描くドラマの企画をNHKに持ち込んだとき、担当プロデューサーから、橋田さんはこう言われた。
「山形が舞台じゃねえ。これ、ドラマにしても、冬のシーンばかりで色がない。話がね、第一、暗いし…、ドラマとして“華がなさすぎる”」
こうして一度はボツとなったが、橋田さんの粘りで、3年がたってから日の目を見ることになった。
このドラマで橋田さんが書きたかったのは、経済的な豊かさの意味を問うことだった。
「バブルが弾けてからは、デフレだ、不景気だと、世の中が閉塞感に支配されるようになりましたが、私はさほど深刻だと思っていません。それなのに“貧しい”と感じるのは、見せかけの豊かさに踊らされすぎたから。幸せを感じる物差しが、どこかでおかしくなってしまったんです」
今は不景気で、そんな時代に生きている自分は不幸だなどと考えれば、どんどん落ち込むばかり。
「やはり、肝心なのは、生きるための知恵を持つことではないでしょうか。それには現実の自分を見つめ、一人ひとりが“身の丈に合った物差し”を持って、今の時代と向き合うことですよ。
そういう意味で、“おしんの心”は、今の時代にも通じること。“身の丈で生きること”はどんな時代にも変わらないことなんです」
不器用でも明日を夢見ながら力強く生き抜いたおしんは、83才で自分を見つめ直した。
「今私は、そのおしんより5つも齢を重ねました。もう賞味期限は切れたと自分で思っていながら、それでも注文があると、脚本を書く…。80才の頃から、“これでやめにします”と言いながら、どうにかもっている。やめる、と言ってもおしまいにしないのですから、“詐欺”といわれても仕方がないのかもしれません。そういえば、ジブリの宮崎駿さん(72才)も5回目の正直でようやく引退されましたよね(笑い)」
そんな橋田さんは、プロの物書きとして、人一倍、健康への気配りも忘れない。週に3回、午前中に近くのジムへ行き、パーソナルトレーニングを受ける。おなかの下に大きなボールを当てての柔軟体操。これにスクワット20回、ストレッチ体操と、1時間たっぷり体を動かして、いい汗をかく。
「だって脚本料をもらえるのは健康だからこそ。健康もお金のうちですから、自分で自分に厳しくしないと…」
人生2度目となる2020年の東京五輪では、橋田さんは95才。まだまだ輝く笑顔を見せてくれそうです。
※女性セブン2013年10月3日号