ピアノをはじめ楽器事業を中心とした「ヤマハ株式会社(以下「ヤマハ(株)」)と、二輪事業を中核とする「ヤマハ発動機」(以下「発動機」)は、別会社ながら同じ「YAMAHA」というブランドを展開しているが、ヤマハ(株)は、売上高に占める海外の割合は54.8%。楽器のハードの売上高に限ってみれば、日本は約22%で、海外で8割近くを売り上げている。
両社は、日本企業の中でも早い段階からグローバル化を果たしてきた。国内の少子化が進んでいるだけに、これからも海外でいかに稼ぐかが重要になる。ヤマハ(株)の業天康亮・楽器営業統括部統括部長が語る。
「まだ西洋音楽があまり普及していない国に楽器や音楽を普及させる。需要創造が我々の課題です」
ラオス、カンボジア、バングラデシュ。「衣食住」さえままならない国々でも、ヤマハ(株)は音楽の普及活動を始めている。例えばラオス。国や地方の教育委員会に、地元の代理店を通じて「音楽を義務教育に取り入れて」と要望している。仮に実現できたとしても、教師がいなければ教育はできない。そのためにリコーダーを教えられる現地人材を養成するという。
「現地で、指導者のオーディションを行ないます。といっても、音楽経験のある人は限られた富裕層しかいません。ですから、音楽の能力よりもやる気を基準に選考しています」(業天氏)
選ばれた人には日本から派遣した講師が教えるほか、日本に研修で来てもらうこともある。小学校の音楽授業でリコーダーがどう使われているのか、教え方や子供の反応などを実際に見てもらうためだ。
「ラオスやカンボジアなどは、すぐに大きなマーケットになるわけではありません。成果として実を結ぶまでに10年以上はかかるでしょう。途上国には、そうした長期にわたる普及活動に対して実感が持てない代理店も少なくありません。しかし、市場が大きくなってから入るのでは遅い。ヤマハは最初に入ってその国の文化に貢献するからこそ、海外で成功してきた」(業天氏)
リコーダーが授業を通して子供たちに広まれば、やがては吹奏楽、さらにはピアノやギターなども普及していき、ビジネスが成立する。楽器も音楽も、食品や日用品のような生活必需品ではない。気の遠くなるような仕事だが、実際に彼らはそうしてきた。
文/ジャーナリスト・永井隆、ジャーナリスト・海部隆太郎
※SAPIO2013年10月号