紺色のボーダー柄のポロシャツに身を包んだ安倍首相がティーショットを放つと、同伴者から「ナイスショット!!」の掛け声が飛ぶ。本人も納得のスイングだったのか、10人近いSPを従えて2打目地点へ歩き出す顔には、東京五輪招致を決めた時のガッツポーズを彷彿とさせる笑顔が浮かんでいた。
3連休初日の9月14日。場所は安倍氏の別荘近くにある山梨・鳴沢村のゴルフ場。安倍首相は今夏の休暇中に森喜朗・元首相や石原伸晃・環境相、日枝久・フジテレビ会長、御手洗冨士夫・経団連前会長ら政財界の重鎮たちとプレーしたことが話題になったが、
「政治家のゴルフというと、何らかの密談や根回しの場のような印象を持たれがちだが、安倍さんは純粋にゴルフを楽しむタイプ。むしろ政治絡みの話はNGという雰囲気がある」(一緒にラウンドしたことがある政界関係者)
といわれる。
恐らく安倍首相自身はこの日も“エンジョイゴルフ”のつもりだったのだろう。しかし、この日の同伴プレーヤーの名が知れわたるや、航空業界に大きな波紋を引き起こした。JALの関係者は顔を曇らせていう。
「翌日の朝刊の首相動静に、ANAの調査部長(執行役員)の石坂直人氏の名前があったので驚きました。調査部は航空行政などへの働きかけを行なう渉外活動の中心部隊。よりによってこのタイミングで総理に直接アプローチするとは……」
日本の航空業界を二分する両社は、経営を左右しかねない「利権」を巡る大攻防戦の真っ只中にある。
「来年3月に拡大される羽田空港の国際線発着枠の割り当てです。これまではJALとANAが均等に分け合うのが慣例でしたが、今回、ANAサイドが“JALは公的支援で再上場を果たした。不公平な競争環境を是正するために、すべての発着枠をANAに配分すべき”と主張しています」(経済紙記者)
今回の国内航空会社向けの割り当ては「20枠」と見込まれている。「1枠あたりの売上高は年間約100億円」(同前)といわれるため、ANAが総取りすれば両社の年間売り上げに2000億円の差が出る計算だ。そして、政府(国交省)が割り当てを決定するのは10月上旬。JAL側が安倍首相と石坂氏のラウンドを「ANAが政府トップに最後の猛プッシュをかけた」と受け止めているのも無理はない。
そうした声について政界関係者は、「石坂さんと安倍総理は、以前から親しい間柄。そもそも割り当ては総理の鶴の一声で決まる話でもない」と指摘する。ANA関係者は「JALは接待ゴルフを自粛しているから、そのやっかみじゃないか」と余裕の対応だ(ちなみに今回のプレーフィーについて、ANA広報室は「コメントできません」とし、安倍事務所からは期限までに回答はなかった)。
※週刊ポスト2013年10月4日号