ウィリー・ラム氏は天安門事件のスクープ報道で脚光を浴びたジャーナリストで、現在は国際教養大学教授。同氏が、中国の海洋権益重視の姿勢について解説する。
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中国共産党は昨年11月の党大会の政治報告で、「我々は海洋資源を利用するために自らの能力を拡大し、国家の海洋権益を完全に守り、海洋大国になるべきだ」などと宣言した。党大会の報告で「海洋大国」が叫ばれたのは初めて。
さらに、習近平は党総書記就任演説で中国軍を「強い軍隊」にすると強調。就任1か月後の昨年12月には広東省で海軍基地を視察し、自ら軍艦に乗り込んで、海軍重視の姿勢を示した。
海洋権益重視の姿勢は政治にも反映されている。習近平は7月30日、海洋権益をテーマに、中国海洋石油や中国海警局などの3人の専門家を招いて党政治局の集団学習会を開催。席上、「国家の核心的利益は犠牲にできない」と述べ、海洋権益を断固として守るよう指示した。
「各種の複雑な情勢に対応するため、しっかりと準備し海洋権益を守る能力を高めなければならない」と強調したうえで、諸外国との対立について「『主権はわが方に属するが、争いは棚上げし、共同開発する(主権属我、擱置争議、共同開発)』という方針を堅持する」と述べた。
これは新しい「12字方針」と呼ばれ、特に注目されるのは領有権の棚上げに触れた点で、日本が尖閣問題の存在を認めて棚上げを表明しない限り、首脳会談に応じないとの姿勢もここからきている。
背景には米軍の存在がある。中国は「100年来の悲願」といわれる空母を装備したものの、わずかに1隻だ。対する米軍は11隻と全世界の空母の半数以上を有し、通常兵力では人民解放軍とて歯が立たない。北京の中国軍事筋によると、中国は現在、上海や海南島で2隻目、3隻目の空母を建造中だ。2020年には海軍力を増強して台湾を統一。さらに、その10年後の30年には太平洋を支配するとの遠大なシナリオを描いている。
オバマ政権も海洋覇権を狙う習近平の野望を警戒し、アジア海域の海軍力を60%以上増強する計画だ。中国が海洋大国化を目指す限り、いずれ太平洋の覇権をめぐって米中両国が戦火を交える危険がますます高まる。
■ウィリー・ラム/Willy Wo-Lap LAM 1952年生まれ。香港大学卒業。米ミネソタ大学で修士号、武漢大学で博士号取得。「アジアウィーク」誌の北京特派員を経て1989年より「サウス・チャイナモーニング・ポスト」紙へ。天安門事件のスクープ報道で脚光を浴びる。同紙退社後、現在は国際教養大学教授。
■翻訳・構成/相馬勝
※SAPIO2013年10月号