軟骨は骨同士が直接ぶつからないようにクッションの役割を担う弾力性のある組織で、軟骨のおかげで関節が滑らかに動くことができる。皮膚などの組織は血管が通っており、傷つくと出血して細胞や液性因子が損傷した周辺に集まり組織を修復する。軟骨には血管や神経がないため、擦り減ったり欠損してもほとんど修復しない。このため根本治療はなく、人工関節置換術など手術療法が行なわれてきた。
1994年、スウェーデンの研究グループが新しい治療法を発表。軟骨の細胞を体外で10倍に増やし、増殖細胞を液体に入れて損傷部に充填し、骨膜のパッチを蓋のように縫いつける再生治療だ。広島大学医学部附属病院整形外科越智光夫教授に話を聞いた。
「スウェーデンの研究では、細胞を液体の状態で損傷部に入れるので、骨膜を縫った隙間などから漏れてしまう可能性があります。そこで安全性が確立されているゲル状のコラーゲンに細胞を入れて立体的な組織を作り、損傷部に留置すればいいのではないかと考えました。それが自家軟骨細胞の3次元培養による軟骨再生です」
ゲル状なので漏れることがなく、約1年で欠損部分が再生し、軟骨の表面が滑らかになる。軟骨の採取に2~3日、細胞を移植する手術後、約1か月の入院が必要だ。
「高齢化社会を迎え変形性膝関節症の治療にも利用したいところですが、損傷部分が大腿骨と脛骨の両方なので再生が難しいため、保険の適用外です。現在は、足首や肘の軟骨再生に向けて研究が進んでいます」(越智教授)
今年4月、4平方センチメートル以上の軟骨損傷に対して保険適用され、越智教授は保険適用前に約130例、適用後は2例の治療を実施している。また全国での軟骨再生治療の実用化と普及を目指し、越智教授は株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングに軟骨再生治療に関わる全ての技術移管を行なった。同社では全国の医師に技術習得研修を実施し、他の医療施設でも治療が始まっている。軟骨の損傷に対する新しい治療として期待されている。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2013年10月4日号