安倍晋三首相は10月にも、国民生活をどん底に突き落とす来年4月からの消費増税の実施を正式に閣議決定する見通しだ。しかし、今回の増税、国民には一体、何のための増税なのか今もってさっぱりわからない。だからやり場のない怒りと不満ばかりが募っていく。
それは与野党の政治家や大メディアが無責任で場当たり的な説明しかしてこなかったのが原因だ。この間の増税論議は、政治家たちの詭弁と屁理屈、そして変節のオンパレードだった。8回も変わった増税の「根拠」は以下の通りだ。
増税論議は、【1】「財政危機論」からスタートした。2006年の段階で、谷垣禎一・財務相(現法相)は、「長期債務(国の借金)のツケを子や孫の世代に先送りしない」と消費増税を主張した。借金穴埋めのための増税は財務省の悲願であり、同省出身の野田毅・自民党税調会長も「消費税を上げないと財政破綻する。国債大暴落になる」(2010年2月)と財政危機を煽った。
民主党政権は増税反対だったが、菅直人氏が首相になると180度姿勢を転換した。折からの欧州経済危機で「このままいったらギリシャのようになってしまう」(2010年7月)と消費税10%を参院選公約に掲げた。「子孫にツケを回さない」も、「ギリシャにならない」も、財政再建のために増税が必要という論理である。
しかし、参院選で国民が増税ノーを突きつけ、菅政権が敗北すると増税の理由はコロコロと変わっていく。
次の口実は東日本大震災だ。菅首相は震災後、参院選敗北でお蔵入りさせた増税論議を【2】「復興財源のため」という口実で再開した。
面白いことに震災復興のための消費増税に反対したのは自民党と公明党だった。復興財源のための臨時増税にすれば、復興が終われば税率を戻さなければならない。そこで消費増税を恒久増税にするため、当時の石原伸晃・自民党幹事長らは「消費税は社会保障に充当すべきだ」と言い出した。
菅首相の後を継いだ野田佳彦首相はそれを丸呑みし、【3】「消費税増税分は全額、社会保障に使う」(岡田克也・副総理)と国民に説明して民自公3党合意を結んだ。
それがなぜか【4】「公共事業のため」にすり替わる。国土強靱化を掲げる自民党は増税法案の修正協議で財源を「成長戦略並びに事前防災」に使う条項を盛り込み、「財政破綻する」といっていた野田税調会長まで「税収のうち5兆円は公共事業に使える」ことを認めた。
そうなると、法案を成立させるためなら何でもありだ。【5】「3党合意だから増税すべし」という理屈が出てくる。公明党の山口那津男・代表は「3党協議で結論を出す政治を確立しないと期待が地に落ちる」と本末転倒な論理を展開し、民自公3党で法案は成立した。
この時点で、政治家は公共事業拡大に欲の皮が突っ張り、「子孫のため」も「社会保障」もどうでもよくなっていたのである。
そして今度は麻生氏が7月23日のG20会議後に【6】「国際公約になっている。上げなかった方がよほど大きな影響を受ける」と発言。
「経済指標を見極めて判断する」といっていた安倍首相も、東京五輪の招致が決まった途端、増税実施へと大きく舵を切った。【7】「五輪が来たから増税できる」という思惑が透けて見える。
だめ押しは、国債暴落のリテールリスク論で、非常に可能性は低いが、起きたら対応できないリスクのことを意味する。つまり最後の増税理由は【8】「隕石落下ほどわずかな可能性のリスクを避けるため」だったというのである。
次々と繰り出した増税の理屈の自己矛盾に苦しんだ挙げ句、強引に増税を決め、“七転八倒”の苦しみだけを国民に押しつけたことがよくわかる。
※週刊ポスト2013年10月4日号