【書評】『スーパーマン 真実と正義、そして星条旗と共に生きた75年』/ラリー・タイ著 /久美薫訳/現代書館/4200円
【評者】川本三郎(評論家)
第二次世界大戦中、米兵はお守りのようにスーパーマンの漫画を持っていた。ケネディ大統領は特別大使に任命していた。昭和天皇も愛読していた!? スーパーマンに関するありとあらゆる情報が収められたサブカルチャア本。アメリカでなぜいまも人気があるのかを分析してゆく。
誕生は一九三八年。ジェリー・シーゲル(作)とジョー・シャスター(絵)という二人の若者によって創作された。意外なことにシーゲルは東欧系ユダヤ人。リトアニア移民の子。当然のようにスーパーマンもユダヤ人ということになる。
クリプトン星で生まれた時の名前カル・エルはヘブライ語だという。スーパーマンだけではない。アメリカン・ヒーローたち、バットマン、スパイダーマン、超人ハルク、Xメンなどの作者はすべてユダヤ系移民だそうだ。
シーゲルの父親は中古衣服屋を営んでいたが、一九三二年、三人組の強盗に殺されてしまった。父親を亡くしたシーゲルは苦労して育ち、「強い父」を夢見るようになった。そこからスーパーマンが生まれた。一九三〇年代のアメリカは大不況下にあり、国民も強く正しいヒーローを求めていた。時代に合っていたため一躍人気者になった。
スーパーマンはリベラル派でもある。貧乏人の敵、悪徳家主をやっつける。妻に暴力をふるう夫をこらしめる。悪名高きKKK(クー・クラックス・クラン)と戦ったこともある。第二次世界大戦後は核兵器の廃絶を願う。スーパーマンの正義を「自警団的正義」と指摘する。つまり公の法と秩序がうまく機能しないから一個人の力で弱者を守る。このあたりは西部劇のヒーローやダーティハリーと似ている。
シーゲルとシャスターは当初、無名の若者だからスーパーマンの著作権を安い値段ですべて出版社に売ってしまった。そのためにいくらスーパーマンが売れても二人のもとに金は入らず、苦労した。困窮生活にも陥った。著作権の重要性を考えさせられる。
※週刊ポスト2013年10月11日号