サヨナラゲームには、興奮と絶望が同時にやってくる。プロ野球には、さまざまな「あの一瞬」が訪れるが、1987年9月20日、広島市民球場で巨人の江川卓に引退を決意させた一発が生まれたあの瞬間も、忘れられない試合のひとつだ。
巨人1点リードで迎えた9回2死一塁。渾身の力を込めた速球を、法大の後輩・小早川毅彦に軽々とライトスタンドへ運ばれた江川は、マウンドに跪き、試合後に人目を憚らず涙した。
「あれを本塁打にされるようでは」と江川は引退を決意する。
引退の理由とされた右肩痛は事実だったが、それより大きかったのは、王監督が江川より成長著しい桑田真澄を重用したこと。すでに江川の気持ちは切れていた。その後4年ぶりに挑んだ日本シリーズでも初戦は桑田、江川は3戦目。西武に敗れた後、王監督に引退の意志を告げた。
※週刊ポスト2013年10月11日号