芸能

前田吟「飯を食い生きるため、家族を養うために演技がある」

 映画『男はつらいよ』では寅さんの妹、さくらの夫の博、ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』では、長女弥生の夫、野田良など、親しみやすい等身大のイメージが強い俳優の前田吟。俳優座養成所時代にすでに結婚して子どもがいたため、演劇論よりも食べることが優先だったという前田の芝居への思いを、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が綴る。

 * * *
 前田吟はこの夏の大ヒット映画『真夏の方程式』でも存在感を見せつけるなど、69歳を迎えてもそのアクの強い演技は健在だと証明してみせている。

 前田は夏八木勲や原田芳雄と同じ俳優座養成所の「花の十五期生」出身だ。役者を目指し高校中退して上京、東京芸術座で一年の研修を経ての入所だった。

 前田は養成所時代から山本薩夫監督の『スパイ』、小林正樹監督『怪談』といった映画や、テレビドラマ『おんまの国』などに出演してきた。卒業後はどこの劇団にも所属することなく、映画やテレビドラマに出続けた。近年ではバラエティ番組、旅番組などでも幅広く活躍している。

 前田吟にとって演技をすることは仕事だと明快だ。

「養成所の若手ってみんな学生っぽいんですよ。でも僕はずっと働いてきたから、生活感がある。それで漁師やパン屋、いろんな若者の役をやらせてもらえました。ただ、そのせいで卒業後はどこにも行く所がなかった。どの劇団からも『あいつは金のために役者をして、汚れている』と思われたんでしょう。

 それに、十五期の中では個性的でも、プロになればそうはいかない。俳優座にいた井川比佐志さんみたいに漁師をやっても農民をやっても僕より遥かに生活感のある方がいるわけですから。

 ただ、僕には働くことしかなかった。養成所を出た時には子供がいましたから、生活が人より違っていたんです。方針は『稼ぐ』ということ。芝居を上手くなろうとか、いい芝居をしようとか、劇団を作ってみんなで好きな芝居をしようとか、そういうのは毛頭なかった。もう、働くことだけ。そのためには、売れるしかないんです。

 今もそうですが、僕は演技をすることが仕事だと思っています。飯を食うため、自分が生きるため、家族を養うため、そのために演技がある。ですから、オファーがあればどんな役でもやりますし、時間のある限りはスケジュールが合えばバラエティ番組も出ます」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。

※週刊ポスト2013年10月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
入場するとすぐに大屋根リングが(時事通信フォト)
興味がない自分が「万博に行ってきた!」という話にどう反応するか
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン