さまざまな場面で指摘される「日本語の乱れ」。脚本家で元横綱審議委員の内館牧子さんは、近著『カネを積まれても使いたくない日本語』(朝日新聞出版刊)で、世の中の乱れた言葉遣いに一石を投じた。内館さんが、言葉の乱れにもの申す。
「あるとき、NHKの女子アナが『普通においしい』って言ったのです。それを聞いて、『ここまで来たか』と思いました。NHKらしくないところを見せたかったのかもしれませんが、安っぽいカン違いだなぁと思いました。
テレビの街頭インタビューでは、『アベノミクスの効果は出ていますか?』と聞かれて、『私たちには↑、まだ↑、わかんない↑』と変に語尾を上げています。中高生じゃなく、中高年ですよ。
若い人と同じ言葉を使って同化したいという気持ちがあっても、40才も過ぎたら、言葉遣いというのは本来きちんとできてないといけないことです。『マジ』『ヤバイ』『ぶっちゃけ』など、語感が汚い言葉もよく使われていますが、『言葉は男っぷり、女っぷりを三割下げる』のです。せめて、きちんとした言葉と若い人の言葉の両方を使えるバイリンガルにならなければと思います。
週刊誌の連載に言葉の乱れについて書くと、毎回大反響で、編集部が呆れるほどの手紙やメールが大量に届くんです。文化庁が行った2011年度の『国語に関する世論調査』で、『自分自身の言葉の使い方に気を使っている』と回答した人が77.9%もいて希望を持ちました。今なら私のような国語学者ではない人間が、市井のおかしな言葉遣いについて書いてもいいんじゃないかと思ったのです」(内館さん、以下「」内同じ)
そして、自身が実際に聞き集めた例を挙げ、『カネを積まれても使いたくない日本語』(朝日新聞出版刊)を上梓したのだ。
日本ではもともと、まわりの人の様子を見ながら自分がどうやっていくか、どう話すべきかを決めていくという文化がある。
「そういう文化だからこそ、断定しにくかったり、へり下ったほうがいいというのは当然ですが、だけど、最近は過剰でしょう。とにかくへり下るのがクセになってしまっている。たぶん、ラクなんでしょうね。ラクなことはクセになるんですよ。
ラクな言葉遣いは、今の世の中の生きにくさを表しているのかもしれません。そうしないと偉そうだと言われたり、仲間外れにされたりするのでしょう。そんな言葉遣いをしなくてはならない世の中は哀しいわね」
しかし内館さんは、これだけ言葉が乱れ、若い人の言葉遣いを中高年もする今、どこかで抑えないと、ひどいことになる気がする、へり下るばかりではなく、個人として断定した言い方を考えるべきではないかと言う。
「最近はやみくもですよね。『8月とかって、暑い? じゃないですかぁ』って…、『8月は暑い』って言って何も困らないわけなのに全部あいまいにぼかす。『新幹線? けっこうスピード↑出すってか』って断定しない。
社会的にもわけがわからない言葉がまかり通っています。『患者様』は今や当たり前ですし、『おコート様のほうと、おバック様のほうをお預かりします』と言われたこともあります。お客様に対する敬意なわけだけど、へり下っておけば安心という防衛策を感じます。
要は人の肝が据わっていない気がするんです。肝が据わってないから、へり下り、断言しなければ責任は自分だけにふってくることはないと、あいまいな言葉遣いをするのだと思いますね。相手を思いやることと、オドオドと生きることは別もの。相手を充分に思いやる気持ちを貫き、断言すべきは断言することです」
※女性セブン2013年10月17日号