【著者に訊け】甘糟りり子氏/『エストロゲン』/小学館/1680円
1年365日。うち28日に1度やってくる〈満月〉の夜が、彼女たちは怖くて堪らない。47歳―刻々と減りつつある“性別=メス”としての残り時間を、月の満ち欠けはどんなに肌を磨こうとつきつける時計であり、不完全な自分をまざまざと映し出す、残酷な鏡だった。
話題作『中年前夜』から6年。甘糟りり子氏(49)の最新長編『エストロゲン』は、フェイスブックを通じて再会したバブル世代の女たち、〈千乃〉と〈真子〉と〈泉〉を軸に、40代男女の性や人生の光芒をリアルサイズで描いた群像劇だ。
表題は生理や妊娠を司る女性ホルモンの一種で、その分泌量は〈一生でわずかティースプーン一杯〉。が、中年や更年期といった言葉を受容するにはあまりにも刺激や情報にあふれ、女も男も枯れるに枯れられないこの時代、彼女たちは人生終盤に差し掛かった自分を他人事のように持て余し、乖離する心と体のすきまに魔はするりと忍び込む。
50目前といえば“最後の恋”という言葉がより切実に響くお年頃。女は自分が女として求められるか否か、男は男性として機能するか否かにそれぞれ戦々恐々とし、今では忘れかけた恋の甘さに、あと一度でいいから溺れたいと焦り始める。が、本書はハッキリ言う。〈若くもない女の恋愛なんて美しいものではない〉と。甘糟氏はこう語る。
「このフレーズにはグサッとくる人も多いらしいですね。でも、満月だけがきれいなわけではないように、女性の身体も人間関係も家庭も、完璧なものだけが輝くのではない、不完全なところにこそ、生きている味わいはあるのではないかと思います。
『中年前夜』を書いた頃はまだ老いというものを気分でしか捉えていませんでした。でも、50歳が目前になってみると、肉体的な問題が思った以上に大きいんですね。老化は自然なことと潔く受け入れたいのに、シワに効く美容液が出たと聞けば、やっぱり買わずにいられないんですよ(笑い)。
アンチエイジングという言葉は好きではないと書いたり言ったりしつつも、やってることは正反対だったりするんです。そんな矛盾だらけでチグハグした中年の正直な姿を、連載開始当時の自分と同じ47歳の男女を通して書きました」
【著者プロフィール】
甘糟りり子(あまかす・りりこ):1964年横浜市生まれ。玉川大学文学部英米文学科卒。アパレル会社勤務を経て、ファッション、食、車などをテーマにコラムやエッセイを手がけ、2000年初小説『甘い雨のなかで』を発表。『みちたりた痛み』『真空管』『中年前夜』『ミ・キュイ』『オーダーメイド』等の他、『マラソン・ウーマン』『思春期ブス』などエッセイも人気。「結婚も出産もしていません。同棲経験もないですね。残念ながら」163cm、B型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2013年10月11日号