高視聴率を記録したTBSドラマ『半沢直樹』。そのナレーションを担当した元NHKアナウンサーの山根基世さんは、「言葉をただ音声にするだけでは伝わらない」ということを心にとめて原稿を読んだという。
「半沢直樹が逆襲に及ぶ動機には真実があります。その意味で、信ぴょう性のあるナレーションでなくてはならない。銀行の専門用語などわかりにくい言葉がたくさん出てきます。そうした言葉をただ音声化するだけでは真実の言葉として伝わらない。一つひとつを理解して視聴者のかたの心に伝えるよう心がけました」(山根さん・以下「」内同)
『半沢直樹』に多くの視聴者が引きつけられた理由のひとつに、俳優たちの言葉がある。
「『倍返し』はちょっと劇画的な表現ですが、本質は人の心の底にある痛み。自殺に追い込まれた町工場の経営者をはじめとして、悔しさ、涙を抱えている人がどれほどいることか…。それを役者さんが自分の中で受けとめて、自分の言葉にして発したときに、初めて人の心に響くのですね。堺さんのセリフが人々の心に響いたからこそ、あれだけの人がドラマに熱中したのでしょう。
香川(照之)さんも場を引きつける話術はさすがですし、及川(光博)さんも親しみのあるかたで、ああいう人格だから親友を助ける役ができたと思います」
山根さんでも言葉で失敗し、布団をかぶって叫びたくなることがあるという。
「多いのは、知ったかぶりをしてしまったとき。言葉を間違えるのではなく、わかってもいないのに、わかったふうな口をきいてしまったときがいちばん恥ずかしい。結局、自分をよく見せようとすると失敗しますね」
女性の場合、敬語で失敗する人が多いが、山根さんは使ったことのない敬語を背伸びして使わなくてもいいという。『いらっしゃいますか』と尊敬語で言えなくても、『行きますか』と丁寧語で言えば敬意は充分表すことができる。
「『テメエ』なんて言葉もね、決していいとは思いませんが、人間として本気で怒ったときは使うのもありです。私は相手のことを本当に考えて言うなら『テメエ』も美しい言葉だと思います。逆に、誰かが言っていた賢そうな言葉をあたかも自分の言葉のごとく話すことは醜いと思いますね」
※女性セブン2013年10月17日号