9月28日、神宮球場で行なわれたヤクルト広島戦は、ヤクルトファンにとっても、広島ファンにとっても生涯忘れられないものとなったに違いない。試合は延長12回の末に引き分け。22時を回ろうかという遅い時間だったにもかかわらず、ゲームセット後も多くのファンが客席に残っていた。
そこで始まったのは、両チームの応援団によるエール交換だ。ヤクルト応援席からは広島のチャンステーマが流れ、逆に広島側では東京音頭が演奏された。
「普段の試合では、相手を挑発こそすれ、エール交換なんてまずない。敵チームのファンに、自チームの応援をしてもらえるとジーンと来ますよ。それにこの日は、思わず目頭が熱くなる感動的なシーンがあった」(50代の広島ファン)
それはヤクルトファンから始まった。
〈狙い絞って振り抜け 速く鋭い打球を 飛ばせ明日へ未来へ 輝け前田 かっとばせー前田!〉
広島・前田智徳の応援歌だ。名物のスクワット応援まで再現し、赤一色のレフトスタンドからはどよめきとともに拍手が起こる。直後、広島ファンからはヤクルト・宮本慎也の応援歌が流れてきた。
〈球道究めたその技で 慎也よ導け日本一 かっとばせー宮本!〉
それは、今季限りで引退を表明した2人が、互いのファンに認められ、愛されていたことを示す象徴的な場面だった。
※週刊ポスト2013年10月18日号