私は世の中を動かすのは、いつだって反主流派だと思っている。主流派というのは、世の中が完成して、その状態を維持強化するために活躍する人たちだ。だから、基本的に彼らに変革の文字はない。
現状を根本から変えようと思えば、原理的に必ず反主流派になってしまうのだ。ところが、変革を成し遂げた途端に反主流派は主流派に転じていく。だから、ずっと反主流派であり続けようと思ったら、実は大変だ。
左翼には「革命は永遠運動だ」という言葉がある。私は左翼ではないが、この言葉は真理を言い当てている。反主流派があえて既成観念や秩序に挑戦し、新しいアイデアを出し続けていくことで、世の中が少しずつ良くなっていく。
最近の例は「半沢直樹」だろう。半沢は自分の信念を曲げずに常務と対決した。その結果、主流派になるかと思いきや、出向になってしまった。きっと続編で半沢は、また反主流派として生きていくのだ。
実は、安倍晋三政権もそうだ。アベノミクス第1の矢である「大胆な金融緩和と2%の物価安定目標」という政策を、それまでだれが本気で唱えたか。財務省や経産省、日銀といった、この国の経済政策を牛耳る主流派からはけっして出てこなかった。
岸信介首相の孫であり保守本流の流れを汲む安倍は主流派とみられがちだが、こと経済政策に関する限り、安倍はまさしく反主流派だったのだ。
だが、いまやアベノミクスが成功を収めるに至って、安倍こそが主流派になった。消費増税をめぐる自民党内の綱引きは、かつての主流派が安倍に押しまくられた結果、反主流派に追いやられ、その反主流派が増税実現によって再び主導権を奪い返そうとする戦い、とみることもできる。
そうだとすると、今後の課題は明白である。安倍の看板政策である「アベノミクスの永続革命」をどう続けていくか。これに尽きる。消費増税によって、アベノミクスが頓挫するような事態になれば、日本経済は再び迷走してしまうだろう。そういう展開にしてはならない。(文中敬称略)
文■長谷川幸洋(ジャーナリスト):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員、大阪市の人事監察委員会委員長も務める。近著に『政府はこうして国民を騙す』(講談社)。
※週刊ポスト2013年10月18日号