チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世は繰り返し「教育はチベットの将来を決定づける」と言い続けてきた。中央チベット政府(CTA=チベット亡命政権)で、その教育行政を実質的に動かしているツェリン・ンゴドップ教育省長官(60)が来日し、本誌の単独インタビューに応じた。(インタビュー&構成/相馬勝)
──中国内では多数のチベット人が焼身自殺を図る一方、激しい弾圧が続いている。
ツェリン:6月に中国内の東チベット・タウ県(中国四川省)でチベット人尼僧が抗議の焼身自殺を図るなど、2009年以来、焼身自殺者は120人になりました(8月28日現在)。彼らはダライ・ラマ法王のチベット帰還と、チベット人の自由を訴えています。宗教の自由など基本的人権が認められていないために多くのチベット人は生きることに絶望し、大切な生命を投げ出して中国政府に抗議する道を選んでいるのです。
──国連や欧州議会など国際組織も強く抗議しています。
ツェリン:ところが中国政府は最近、焼身自殺を止めさせるために、チベット人が居住する村に中国人民解放軍の大部隊を常駐させ、監視の目を強化しました。そして、チベット人のリーダー的存在の人物を冤罪で逮捕して死刑や長期の懲役刑にするなど、逆に弾圧を強めているのです。
ある地域では焼身自殺を図って火だるまになっているチベット人を助けるどころか、「早く死ね」とばかりに身体を蹴ったり、棒で殴りつけたりするという、人間として考えられない行為まで報告されています。
──非人道的対応だ。
ツェリン:それだけではありません。中国内やネパールでは、焼身自殺したチベット人の遺体を軍や警察が持ち去って遺族に返さない事例もあります。チベット人の多くは敬虔な仏教徒ですから、肉親や友人、知人が亡くなれば遺体を丁重に葬ります。遺体を奪われれば死者の魂を弔うこともできません。非道です。
──国際的な人権団体は、ここ数年間で約200万人のチベット人が中国政府の命令で移住を強制されていると報告しています。
ツェリン:それは事実です。放牧を生業にしているチベット人が定住生活を強要され、長屋のような住居に押し込められて移動の自由を奪われています。放牧はチベット古来の生活様式です。それを奪われることは、民族の文化を失うことにつながります。
中国政府は定住すれば補償金を出すと約束していますが、地元政府の役人にピンハネされてチベット人には渡されない例がほとんどなのです。さらに、チベット語の使用を制限されるなど伝統文化は傷つけられ、人権は奪われ、生活も苦しくなって絶望のなかで生きている人が多い。
中国内のチベット人口は約460万人ですので、移住を強制された人数はほぼ半数に当たります。これはチベット文化を根絶しようとしているとしか考えられません。中国政府はチベット人も中国国民だと言うのであれば、このような非情な政策をまず改善すべきです。
※SAPIO2013年10月号