韓国・ソウルの玄関口である仁川空港から車で約1時間。ソウル南部矯導所は、2年前に移転したばかりで、その外観は刑務所というより、新築の芸術ホールか、スポーツ施設のような印象を受ける。収容人数は1100人。刑期が短い受刑者が中心に服役している。医療施設など最新の設備を備えたモデル刑務所だけに、韓国の元国会議員や財閥関係者など大物の囚人も多いという。
戦後日本の経済犯罪史に名を刻む韓国籍の実業家・許永中(きょえいちゅう・66)氏が服役していたのも、この矯導所だった。
9月30日のソウルは早朝から雨がぱらついていた。それが直前に止んだ午前10時ちょうど、矯導所のゲートを1台のバスが通過し、目の前の駐車場に止まった。釈放される受刑者が次々に降りてきて、出迎えの家族が取り囲む。10人ぐらいの出所者に続いて青いマスク姿の許氏が姿を現わした時、収監前の彼の姿を知っている関係者は息を呑んだ。
許氏は身長180センチ、体重100キロをゆうに超える巨漢だった。だが、長期の服役を経て、別人のようにすっかり痩せていた。30キロ以上も減ったという。ただ、金縁の眼鏡の奥に見える眼光の鋭さは、「闇の帝王」「裏社会の代理人」「日本財界の陰のフィクサー」など、様々な異名をほしいままにした1999年の身柄拘束当時と変わりはない。
許氏は何も語らず、出迎えた親族が用意した車に乗り込んだ。そして検査のために病院に向かった──。
※週刊ポスト2013年10月18日号