「無事故・無違反なのに、高齢者というだけでドライバー失格のレッテルを貼られる」──こんな肩身の狭い思いをしているシニアドライバーが増えている。世間では「高齢者の運転は危険だ」という声が強くなっている。
千葉県在住の67歳男性がうなだれる。
「定年後の楽しみに、“これからは妻や孫を連れて旅行やドライブに行こう”と、退職金で車を買った。なのに息子たちは“そんな年寄りの車に子供を乗せられない”と孫を寄こしてくれない。それどころか“そろそろ免許を返したほうがいいんじゃない?”と言い始めた。
同世代の人間ならわかってもらえると思うが、まだまだワシらはそんなに耄碌しちゃいない。そりゃあ若い頃と比べれば体力や反射神経は衰えたかもしれないが、その分安全運転に気をつけているのに……」
運転を生業にするタクシードライバーからも嘆き節が聞こえてくる。都内を中心に営業する70代の個人タクシー運転手がいう。
「30年以上も都内を流しているから、道も熟知している。若い運転手のようにナビを見ながらフラフラ危ない運転をすることもない。稼ぐために長時間勤務していた50代の頃より体調管理にも気をつけています。
ですが、最近のお客さんは、私の白髪頭と顔のしわを見るだけでタクシーを止める手を降ろそうとする。それもこれも高齢者の運転は危ない、というイメージが植え付けられているからです」
都心と地方では状況も異なる。車がなくても生活に不便のない都心とは違って、地方では車はまさに「生命線」だ。
「周りは免許を返納しろとやかましいが、私が車を運転できなくなったら商売上がったりだ。田舎じゃ市場へ行くにもどこに行くにも車が要る。それに、車があふれる都会の複雑な道と、広くて見通しの良い地方の道は全然違う。大事故を起こすことはないよ」(山形県在住で農業を営む70歳男性)
しかし、彼らの反論むなしく、行政も「高齢者の免許返納」に積極的だ。
警視庁や大阪府警をはじめ、多くの地方県警では自動車運転免許の自主返納者に対して、自主返納サポート協議会に加盟する企業や団体から様々な特典が受けられるキャンペーンを実施している。その内容は、公共交通機関の割引に始まり、ホテル宿泊やレストランの優待など多岐にわたる。
また、2002年からは免許証を返納すると、代わりの身分証として使える「運転経歴証明書」の発行も受けられるようになった。 こうして外堀は埋められ、シニアドライバーの肩身はどんどん狭くなってきているのである。
※週刊ポスト2013年10月18日号