忙しさにかまけて親孝行できず、後悔する人は少なくない。では、どうすれば良かったのか。母親が元気なうちに、優雅な旅行へ連れ出せば良かったのか、豪華な食事をご馳走すれば良かったのか──。
「今、親孝行される側と、する側には、ギャップがあります」。そう話すのは、親孝行支援サイト「親孝行.Style*」を運営する、親孝行アドバイザーの秋田谷結香氏だ。
彼女は「親世代がありがたかったこと」についてアンケート調査を実施したが、高齢者から得られた結果は「病院に付き添ってくれて、難しい医師の話を一緒に聞いてくれた」「自分の葬儀や終の棲家について相談に乗ってくれた」などだった。些細なことや、不謹慎ではと忌避しがちなことが、実は感謝されるのだ。
母親の遺言状の作成を手伝ったという64歳の男性は「ホッとしていたようだ」と振り返る。テレビでも頻繁に報道される相続争いは、老いていく親の悩みの種。
それを解決できたことに、85歳を超えた母親は安心したのだろう。
「子供の頃、安心して学校に送り出してもらったように、今度は自分が、母を安心させて、あの世に送り出してやりたいと、そのとき改めて思いました」
秋田谷氏は、老いた親に贈るべきは、まず、モノではなくて親と子が共有できる思い出だという。
「たとえば旅行へ行っても、旅館が高級だったことは記憶に残らないようです。それよりも、一緒に行ったという事実、思い出が嬉しい」
その思い出を何度も楽しむため、そのときの写真をアルバムにしてプレゼントすると喜ばれるという。これなら、簡単にできる。
何を喜ぶかは人それぞれ。小誌は実際にオーバー80の親たちに話を聞いた。
九州に暮らす80代夫婦は、嬉しいこととして、帰省した息子が母親を台所に立たせないことを挙げる。
「『もう母ちゃんはいいから座布団に座ってゆっくりしとって』って言うんです。私らには何もさせません」
息子は帰るなり買い物へ出かけ、料理をし、それを両親に振る舞うのだという。
「息子の料理ですか? そりゃあ、何を作ってもらっても、おいしいですよ」
腕に自信がなくても良さそうだ。北関東に暮らす82歳の男性は息子夫婦の手早い“避妊措置”に感謝する。
「うちにネコが住み着いたんです。可愛いのでエサをやっていたんですが、増えてしまってはご近所にも迷惑をかけてしまうので心配していました」
悩みを聞いた息子夫婦はまとめて動物病院へ連れていき、手術を受けさせた。
「6万円くらいかかったはず。でも、お陰で近所の目も気にならなくなって、最高の親孝行をしてもらった」──行動力もまた、喜ばれる。
※週刊ポスト2013年10月18日号