成人の腎がんは、50歳以上で罹患率が上がる。喫煙や肥満などが危険因子の一つで、死亡率は男性が女性の3倍も高い。腎がんは腫瘍が5cm以上にならないと症状が出にくいが、近年超音波検査やCTの普及でかなり小さいがんでも発見されるようになっている。
しかし、腫瘍の大小にかかわらず、治療は手術や内視鏡で腎臓を摘出されるケースが多い。順天堂大学医学部附属順天堂医院泌尿器科の堀江重郎教授に話を聞いた。
「腎臓は体内の4分の1~5分の1の血液が集まる臓器で、切開すると出血や再発の危険性があるうえ、2つあるので1つとっても問題ないため、全摘されることが多いのです。しかしながら、部分切除と全摘を比べると全摘は高血圧や腎機能の低下などが起こりやすいという研究結果があります。がんが小さければ、部分切除の方が健康長寿に繋がると考え、3Dプリンターと手術支援ロボットのダヴィンチを組み合わせた治療法を考案しました」
ダヴィンチは、従来の内視鏡手術にロボットの機能を合わせたようなもので、内視鏡カメラとアームを使い3Dモニターを見ながら遠隔操作で手術する。昨年4月、前立腺がんに対するロボット手術が保険承認され普及しつつある。
従来の内視鏡手術は、細い棒の先に鉗子がついており、曲げたり動かしたりが難しい。ダヴィンチでは、医師はサージョンコンソールと呼ばれる機械に座り、視野を15倍まで拡大できる3Dモニター画像で患部を見ながら患者に触れることなく遠隔操作できる。ダヴィンチの鉗子は、手指のように自在に動くうえ、手ぶれ制御や操作速度コントロール機能もあり、角度や範囲を見ながら切除可能だ。
これに医療用に開発された3Dプリンターで作成した腎臓の立体模型を使うことで、さらに手術の安全性が向上する。腎臓のCTスキャンデータを基に、紫外線で硬化する樹脂を噴射し0.01~0.1ミリの薄い層を積み重ねながら造形していく。形成は数時間程度で完成する。
立体模型を使って、患者にがんの場所や手術方法をわかりやすく説明できる利点もある。さらに3Dプリンターとダヴィンチを組み合わせることにより、手術時間が大幅に短縮され患者の負担が減る。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2013年10月18日号