高齢者の運転による事故が頻繁にニュースになる。世の中には「高齢者の運転は危険」という刷り込みもなされつつある。しかし、このたび本誌が年齢別の交通事故件数や免許証保有人口などといったデータを検証したところ、この“常識”が必ずしも正しくないことが明らかになってきた。
平成24年の65歳以上のドライバーの交通事故件数は、10万2997件。10年前の平成14年は8万3058件だから、比較すれば約1.2倍に増えている。
これだけを見れば確かに「高齢者の事故は増えている」と思ってしまうだろう。しかし、65歳以上の免許保有者は平成14年に826万人だったのが、平成24年には1421万人と約1.7倍となっている。高齢者ドライバーの増加率ほど事故の件数は増えていないのだ。
また、免許保有者のうち65歳以上の高齢者が占める割合は17%。しかし、全体の事故件数に占める高齢者ドライバーの割合は16%で、20代の21%(保有者割合は14%)、30代の19%(同20%)に比べても低いことがわかる。
年齢層ごとの事故発生率でも比較してみよう。
平成24年の統計によれば、16~24歳の事故率は1.54%であるのに対し、65歳以上は0.72%。若者より高齢者のほうが事故を起こす割合ははるかに低い。この数値は30代、40代、50代と比較して突出しても高くない。
また、事故の“種類”も重要だ。年齢別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数を見ると、16~24歳が最も高く(8.52人)、65歳以上はそれより低い件数(6.31人)となっている。
高速道路の逆走など、一部の“トンデモ事故”がメディアなどでクローズアップされるだけで、実際には高齢者が事故を引き起こす確率は決して高いわけではないのだ。脳神経疾患や認知症が専門である鳥取大学医学部の浦上克哉教授は、高齢者の運転についてこう語る。
「一口に“高齢者”といっても、視力や注意力など、運転に必要な能力には個人差が大きい。運転のように、長年の経験によって覚えている記憶を“手続き的記憶”と呼びますが、一般的にこういった古い記憶は年を取ってもある程度保たれます。もちろん高齢者は自分の現在の能力が若い頃と違うと知る必要があるが、“高齢者の運転=危険”と杓子定規に決めつけることはできません」
※週刊ポスト2013年10月18日号