20年に一度、社殿や御神宝、鳥居、橋に至るまですべてが新たに造営される「式年遷宮」が行われる伊勢神宮。すでに神様が新宮に遷られる「遷御の儀」を終え、新たな神様のお住まいは1300年前と変わらぬ佇まいとなっている。
そんな「遷御の儀」に立ち会った日本文学研究者、文芸評論家のドナルド・キーン氏(91才)が、伊勢神宮に対する想いを綴る。
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宇治橋を渡るとき、ここからだんだん別の世界に入っていくという気持ちになります。
「遷御の儀」に立ち会うのは今年で4回目。初めて新しいお宮を見たときは、その美しさにただ驚きました。不必要な飾りは一切なく、木そのもの、自然そのもの、美しい森の中に宗教があり、神様と同じ場所に存在する、その清々しさ。極めて日本的なもの、その根源が伊勢にはあると感じます。
留学生として初めて日本を訪れた1953年以来、20年ごとに遷宮を見つめてきました。前回は作家・司馬遼太郎さんと一緒に参加しました。彼は寒い寒いといって建物の中に入って儀式をじっと見守っていました。
宇治橋を渡り、美しい川があり、そこで手や口をすすぎ、参道を歩いていく。私にとっての伊勢神宮──それは、ひとりの日本人として、自然に対する尊敬と愛情を表現する場所です。
※女性セブン2013年10月24・31日号