親孝行はできるだけしたいもの。贈り物をするのも旅行に連れていくのもじっくり話を聞いてあげるのもいい。ただ、あれもこれもと気負っては長くは続かないものである。
「東日本大震災以降、故郷に暮らす親のことが急に心配になった人たちによるUターン介護が増えている」(親孝行アドバイザーの秋田谷結香氏)が、突然、慣れない環境に身を置くことで、介護疲れが心身を蝕むこともあるという。そうなっては親孝行どころではない。
親に寄り添おうとし過ぎて、自分の限界を感じた人も多い。57歳の男性は、母を亡くしたのを機に、80歳の父との同居を決めた。今こそ親孝行をと意気込んだが、自分の空回りに気がついた。
「母を亡くした喪失感を埋めたいと思ったんですが、私のすることと言えば父がカラオケで仲良くなったという女性のところへ送っていったり、迎えにいったり」
息子にしてみれば、母以外の女性と仲良くする父を見るのは複雑だった。
「でも、父にとってはその送り迎えが、私に一番してほしいことなので……」
思春期の子供を見守る親のような心境だという。
また、「こっちが成長したせいかもしれませんが、父親が子供のように見えます」と話すのは千葉在住の60代の男性だ。昭和ヒトケタ生まれの父親は、体力が衰えたせいか、わがままを言うことが増えたという。
「それでいてプライドが高く、こっちが面倒をみようとすると嫌がる。足腰が弱っているからお風呂にいれてあげようとしたら激しい剣幕をみせてました。密に接しようとすると喧嘩になるから、ほどほどの距離を保つようにしています」
それでも父は気になる存在。男性は、出社前に近所の父親宅に立ち寄り、15分だけ新聞を読んでから出かけるようにしているという。
「私の元気な姿を一日一回見せることも親孝行の一つだと割り切っています」
大阪在住の59歳の男性には、同居する89歳の母親がいる。痴呆が進み、普段は孫の名前もなかなか出てこないのだが、ある電話には「あ! ○○さん!」と即座に反応した。
それは、故郷の福井にいる、50年近く会っていない女学校時代の友達からかかってきたものだった。実は、しかけたのは息子だった。
「刺激が必要だと思って、母や福井にいる親戚の話を参考にして、母の同級生を探し出したんです」
ただ、年齢もあって、なかなか会うまでには到らない。そこで、良ければ電話をしてもらえないかと頼んだ、その結果だった。
「20分間くらい、嬉々として話していましたね。その後も、その頃好きだったという『ゴンドラの唄』を口ずさんだりして、本当に幸せそうでした」
母親は、最近、こんなことを言っているという。
「元気になって福井へ行って久しぶりに彼女に会うの」
我々もまずは、できることから始めたい。
※週刊ポスト2013年10月18日号