10月1日午前11時半頃、横浜市のJR横浜線・中山駅近くの踏切で、線路上に横たわっていた男性(74才)を助けようとした、村田奈津恵さん(享年40)が電車にはねられ死亡する事故が発生した。
4年ほど前から父親の不動産会社で働き、家業を継ぐために資格の勉強に励んでいたという村田さんはこの日、車で父親と物件を見て回り、会社に戻る途中で、車列の先頭で踏切待ちをしていた。
すると、おぼつかない足取りの男性が、遮断機をくぐり、レールに首を置いて横になった。目撃者によれば、もしかするとこの男性は自殺を図ろうとしていたのかもしれないという。
村田さんは、「助けなきゃ!」と、叫び、助手席から飛び出した。運転席から父親の恵弘(しげひろ)さんが「間に合わない! 行くな」と呼び止めたが、村田さんは、その制止を振り切って、一目散に男性のもとに駆け寄った。
村田さんは、男性の体を押して、線路の外になんとか男性を動かした。そして、自分も逃げようとしたそのとき…村田さんが車を飛び出してからわずか7秒間の出来事だった。恵弘さんは一部始終をただ見ていることしかできなかった。村田さんは即死、男性は鎖骨を折るなどの重傷を負ったが、命に別条はなかった。
なぜ、村田さんは救出の途中であきらめて逃げなかったのか。社会心理学者の碓井真史さんはこう分析する。
「助けたいという思いは、助けている行為の最中、どんどん強くなるんです。今回の事故は、まさに男性の体を押している段階で電車が迫って来てますから、自分だけ逃げるという発想にならない」
自らの命と引き替えに男性を助けた村田さんには、政府から紅綬褒章が、警察庁から警察協力章が贈られる。
一方、助けられた本人とその家族は、事故をどう受け止めているのだろうか。碓井さんはこう推測する。
「誰かの命が犠牲になって、助けられた人たちの気持ちは『生き残って申し訳ありません』という感覚です。今回の助かった男性も、村田さんが線路に来てくれた時に話した言葉や様子は、頭からずっと離れないで、罪悪感を持ち続けていくと思います。
だからこそ、助かった人たちは幸せにならないといけない。不幸な人生を送ったら、助けたほうの遺族のかたは、何のために助けたかわからない。自分の大切な人の死が無意味になってしまう。もし、ご本人が亡くなってしまった場合でも、そのご家族が幸せになることで、遺族は少しでも救われるんです」
遺族も助かった人も幸せに生きること。善意の代償に報いるにはそれしかない。
※女性セブン2013年10月24・31日号