小泉純一郎元首相が講演会で話した「脱原発宣言」が波紋を広げているが、その背景について、ジャーナリスト・須田慎一郎氏が指摘する。
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去る9月24日、都内で開かれたイベントに小泉純一郎元首相が登場し、約1時間にわたって精力的に講演した。その日の演題は、「日本の歩むべき道」というかなり地味なものだったが、話の中身はほとんど脱原発に終始した。
中でも聴衆の注目を集めたのは、以下に紹介する発言だ。
「日本は一刻も早く、原発ゼロ社会を目指すという方針を決めるべきだ。そして政治がそれを主導すべきだ」
小泉元首相は、単なる思いつきでこうした提言をしたわけではないようだ。福島第一原発事故をきっかけに、脱原発への「本気度」はかなりのものだ。講演では次のような発言もしている。
「3.11以前に電気事業連合会は『原発が一番コストが安い』と説明してきたが、今では誰もそのことを信じないだろう」
ストレートな電力業界批判だ。政界を引退し自由な身とはいえ、今も各方面に大きな影響力を残す人物の発言としては、かなり刺激的と言える。
注目に値すべきは、今の小泉元首相の立場だ。小泉氏が現在活動の拠点としているのは、「国際公共政策研究センター(CIPPS)」。そこで「顧問」の肩書を得ている。
「このシンクタンクは、首相退任後の小泉氏の活動拠点を確保するために、奥田碩(おくだ・ひろし)元経団連会長が音頭をとって設立されたものです。そうした意味でCIPPSには財界主流派の全面バックアップがあると言っていい」(日本経団連副会長)
だとするならば、前述の小泉発言がそうした財界主流派の意向をまったく無視したものだとは考えにくい。
「CIPPSの会長には奥田氏自身が就任しています。問題の小泉発言には、財界主流派がイメージする日本のエネルギー戦略が大きく反映されていると言ってもいい」(前出の経団連副会長)
財界が、脱原発へ大きく舵を切り始めたのだとすれば、巷間伝わる話と全く異なる。小泉発言の真意を巡り、様々な憶測が飛び始めているのは当然だろう。
※SAPIO2013年11月号