「倍返しだ!」が流行し平成の最高視聴率記録を塗り替えた『半沢直樹』。いったいこの作品は他の作品と何が違ったのか、そしてこれからのドラマにどんな影響を与えるのだろう。コラムニストの亀和田武さんと今井舞さんが語りあった。
今井:大河含め、今のドラマは若手が中心ですが、おじさんやおばさんが主人公のドラマがあってもいいと思うんです。田村正和と篠ひろ子の『カミさんの悪口』(1993年・TBS系)も雰囲気があってよかった。そして最近では『半沢直樹』に出てた倍賞美津子。あのシワのかっこよさ!
亀和田:そうそう! 羽根専務は原作では男だけど、ドラマでは女性にして、迫力が増した。深いシワは、ジャンヌ・モローの近作にも通じる味わい。
今井:さらに身につけているもののリアリティー。高そうなスーツや上品なアクセサリーをまとうことによって、彼女がこれまでどういう価値観を持ってどういう人生を歩んできたのかがひと目でわかる。
亀和田:同族経営の会社のなかで、支えてきたのは自分だという、独善的だけど彼女なりの大義名分を感じる。
今井:それでいて劇中でこれまでの苦労なんて口にしない。今、なぜこういう心理かを存在と行動で伝えている。これが最近のドラマになかった。脚本家や演出家が何を強調して、何を省略するかがすごくよくできていたと思うんです。
亀和田:敵役もよかったよね。
今井:上の話ばかり聞くイエスマンや、データ一辺倒の人とか、どのキャラも「私の周りにいるいる!」という要素を濃縮したタイプばかり。
亀和田:ぼくの助演男優賞は大阪の支店長役の石丸幹二かな。冷酷なエリートで、部下に責任を押しつける最低な男だけど、家族思いで。両面あるからリアルな悪人になった。
今井:監督は最初から役のイメージができていたって証明ですよね。普通なら、パッと見て誰だかわかる有名人を据えたがるじゃないですか。そうじゃなくて、“この人誰!? 見たことないけどすごくない!?”みたいな。みんな役者冥利につきるって顔して、イキイキと演じていましたよね。
亀和田:近藤役の滝藤賢一も完璧な演技だったね。
今井:もう、目がこぼれ落ちるよ! みたいな(笑い)。
亀和田:そうそうそう(笑い)。それと大うけした、金融庁のオネエ検査官役の片岡愛之助。彼がいちばんの儲け役。
今井:適材適所というか、プロの役者にプロの仕事をさせると、ああいう名作ができあがるんですね。
※女性セブン2013年10月24・31日号