『半沢直樹』(TBS系)や『あまちゃん』(NHK)の大ヒットで「テレビドラマ健在」を知らしめたが、ドラマの評価とはどのように決まっていくのか。
たとえば、『高校教師』は、教師役の京本政樹が生徒をレイプした上に写真を撮って脅したり、ヒロインの桜井幸子が父親役の峰岸徹と近親相姦関係にあったり、過激な設定ばかりが注目されていたが、当時ディレクターとしてかかわっていた鴨下信一さん(演出家・1958年TBS入社)は、制作側はむしろ淡々としていたと語る。
「内容は過激でも、普通のドラマとして撮ろうとしていました。1話で教師の真田広之を制服姿の桜井幸子がこっそりと尾行するシーンや、家を抜け出してきた桜井が公衆電話から真田に電話するシーンを撮っていたとき、“なんてかわいいんだろ”と思って、スタッフ一同これはいいドラマができるなという予感がしました」
名作といわれる『岸辺のアルバム』も、清純派といわれた八千草薫が竹脇無我と不倫したり、娘がレイプで妊娠という秘密を抱えて、家族は崩壊寸前、最後は家が洪水で流されるという暗い内容だったが、鴨下さんはあえて、衝撃的な内容を強調しなかったという。
「山田太一の脚本は暗かったんですが、これも淡々と撮りました」(鴨下さん・以下同)
本放送時の視聴率はそれほどふるわなかったが、視聴者からの再放送の要望が強く、鴨下さんの記憶では数年の間に7回は再放送していたという。
「そうこうするうちに、“当時を鋭く描いた名作”としての評価が後から高まっていったんです。『ふぞろいの林檎たち』もいい作品はできたと思ったけれど、こんなに何シリーズも続く名作になると思ってはいなかった。名作を撮ろうとして撮っているわけではないんです」
現在でも、制作側の姿勢は当時と変わらないと鴨下さんは言う。
「ドラマが大ヒットする要因は、画期的な設定や過激な描写より、経験が大切だと思うんです。『半沢直樹』を制作したチームは、同じく銀行を舞台にした『華麗なる一族』での経験を生かしたから、ああいうおもしろい作品に仕上げることができた。制作者としては、地道な経験を積んでいくのが、大切な気がしています」
※女性セブン2013年10月24・31日号