9月のアルゼンチン・ブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会(IOC)総会。「運命の日」を前に、日本チームは周到な準備を重ねた。まずは本番前、会場の配置図を確認。本番会場でのリハーサルは一度のみだ。
IOC委員は広い会場内で壇上に設置された巨大なスクリーンを通じて各国のプレゼンを見つめる。スクリーンに映し出される角度や目線まで細かく計算してカメラに視線を送らねばならない。
原稿は繰り返し練習するため暗記せんばかりだが、一応、壇上の斜め前に置かれたプロンプターというモニターに白く浮かび上がる文字を確認できる。しかし、
「カンニングばかりでは印象が悪い。スピーチ中はカメラを見つめながら、時に会場全体を見渡すようなしぐさを入れて、プロンプターを“チラ見”していました(笑い)」(猪瀬直樹都知事)
プレゼンはすべて英語とフランス語で臨んだ。今年5月、ロシア・サンクトペテルブルクでの招致プレゼンで、トルコのスポーツ大臣が自国語でスピーチする姿を見た猪瀬氏は、正直驚いたという。
「トルコは英語はもちろん、ロシア語もフランス語も堪能な人が多いと聞かされていたので。通訳を介するとIOC委員に与える印象が弱くなるため、ぼくらはプレゼン用に英語を徹底的に鍛えました。国際的な場では、“日本人が日本人らしくなく”スピーチすることがとても大切です。胸に手をやる、大きく両手を振りかざす、なんて大げさなジェスチャーにはなかなか慣れないけれど、戦略ですから、何度も練習しましたよ」
猪瀬氏がプレゼンの手本にしたのは、『ハーバード白熱教室』で知られる・マイケル・サンデル教授と、アップル創設者のスティーブ・ジョブズ氏だ。
「以前から2人を見習い、大学の講義や講演会などで、身振り手振りを交えて話し、客席に問いかけるようにしていたんです。その経験が生きました。淡々としゃべっても、聞き手には伝わりませんから」
※女性セブン2013年10月24・31日号