職に就かず、職探しもしない若者たちの存在はニートと呼ばれ、社会的な問題となって久しい。彼らは往々にして「怠け者」や「無気力」といったレッテルを貼られことがあるが、決して働くことを諦めたわけではない。
日本全国からニートを募り、全員が取締役に就任。組織に縛られない自由な仕事をする――。そんな今までにない経営スタイルの事業主集団「NEET株式会社(仮称)」が、年内の設立に向けて準備を進めている。
都内で6月に開かれた説明会では、会場は200人の若者たちで満員状態。その他、約1000人がネット中継で参加するなど関心の高さがうかがえた。
当日はアパレルメーカーを退職して生活保護を受けているという男性が、「過去のノウハウを提供するので、みんなで助け合って頑張りたい」と熱く意気込みを語るなど、ひとくちにニートといっても、意外にも社会復帰や他人とのコミュニケーションに意欲的な若者が多いことに驚かされた。
<現状に違和感を抱き、既存の企業組織や雇用・就業の枠組みにおさまらない『進化するマイノリティ』の若者>
同プロジェクトを立ち上げたNPO法人「ヒトコトネット」の安田佳生理事長と、慶應大学SFC研究所上席訪問所員の岩新雄純氏は、人材募集に際してニートの特性をこう定義づけた。その後、NEET株式会社は8月下旬に会社の方向性を話し合う“合宿”を行い、そこでも100人以上が参加したという。
ニートに対する誤解や偏見を取り除きたいと願うのは、無業者の実態を調査している学者も同じ。ニート研究の第一人者として知られる東京大学社会科学研究所教授の玄田有史氏が話す。
「私が2004年にニートという言葉を用いて問題提起したときも、偏見や誤解を生むといった批判を受けました。しかし、職に就かない若者は怠惰をむさぼっているのではなく、就職活動をするうえで、自分に適した仕事の情報が入手できないために、ますます孤立してしまっているのです」
玄田氏は先ごろ、ニートとは違った新しいタイプの孤立無業者「SNEP(スネップ)」の存在を報告した。20歳~59歳の働き盛りで未婚、無職のうえに友人や知人らとの交流を持たない人たちの存在が162万人に上る――という衝撃的なものだった。
「スネップはメールやネットを通じた情報検索や収集にあまり積極的ではなく、就職活動をしないばかりか、そもそも働く希望を持っていない人も多いんです。スネップがニートを生み、逆にニートになることでスネップを深刻にするという負のスパイラルが心配されます」(玄田氏)
しかし、またスネップという言葉だけが一人歩きし、新たなレッテル貼りにつながらないのだろうか。玄田氏は強い口調でこういう。
「そういう言葉を使わないことで問題解決するのなら使いません。でも、無業者の孤立が広がる現状は、食い止めるべき社会病理の一つです。それをあたかも存在しないかのように『無視』することのほうが問題だと思います」
NEET株式会社のように、ニートやスネップが陥ってしまった「社会との壁」を理解したうえで、彼らが持つ好奇心や潜在能力を引き出す。そんなサポート役がこれからも必要になってくる。最後に玄田氏はこんな話をしてくれた。
「ニートには『就職を求める人たちの長い行列の後ろのほうに並んでいる』感覚があるそうです。いつまで経っても自分の順番が前に繰り上がっていく気配がないと……。そして、仕事に就くことを徐々に断念してしまうのです。
そこで友人や知人、家族などからの励ましや応援があればもう少し頑張ろうという気になりますし、『並んでいる列だけが選択肢じゃない』とアドバイスしてあげる人がいれば、状況はまた変わってくるはずです」