2020年に開催が決まった東京五輪の経済効果を期待する話題で盛り上がるなか、2014年4月より消費税率の8%への引き上げが決まった。あわせて5兆円規模の経済対策を実施することも決まったが、せっかく上向いてきた景気に水をさす結果にならないか、不安視する声も出ている。いったい、私たちの生活はどうなるのか、日本経済はどうなるのか。立正大学経済学部教授・林康史氏は、消費税増税の日本経済への影響は少なくない、と見ている。
「消費税増税ということは、アベノミクスでせっかく景気の導火線に火を付けながら、自分でその火に水をかけて消しているのと同じです。中途半端な政策といえるでしょう。今後しばらくは消費税増税の影響で消費マインドが冷え込むでしょう。その後は必要な消費も戻るでしょうが、贅沢な消費はしばらく戻ってこないと思います」
一方、投資情報サイト「東京IPO」編集長・西堀敬氏は、長い目で見れば増税の影響は軽微だと分析している。
「消費税増税の影響が大きいのは耐久消費財でしょう。なかでも自動車やマンションなどへの影響が大きいと思います。しかし、企業は増税のショックを織り込み済みであり、例えば自動車に関しても、ディーラーや自動車関連企業の社長に話を聞くと、『増税後半年は厳しい環境が続くと思うが、その間に増税前の駆け込み需要の影響が相殺され、その後は普通の状態に戻る』と考えているようです。
また、マンション業界なども消費税アップに対応して、需要を前倒しして取り込むような仕込みをしているはずです。そのため、これからしばらくはショックが続くと思いますが、いずれ消費は戻るはずで、長い目で見ると消費税の影響は軽微なものだと思います」
消費税増税についてそれぞれ見方は異なるが、消費者や投資家が前向きになり、消費や投資が増えることが景気回復のカギになるという。前出・林氏が語る。
「消費税の前に五輪開催が決まり経済効果が期待されましたが、これが意味するところは、将来やるはずだったインフラなどの整備を前倒しで今、一気にやるということです。その分、将来の落ち込みは覚悟しなくてはなりません。ただ、五輪がなければ生じなかった需要を喚起する部分もあるので、その分はプラスになるでしょう。
最近は、景気を左右するニュースが続々発表されていますが、これらのニュースの材料の直接的な効果より、五輪やアベノミクスによる最も大きな効果は、消費者マインドを変えたことではないでしょうか。
例えば病は“気”からといわれるように、難しい病気でもプラシーボ(偽薬)効果で治ってしまうことがありますが、景気もこれと似て、みんなが今後よくなると信じていれば、よくなっていく可能性は大いにあると思います。私はこの“気”に関して、五輪やアベノミスの効果を消費税増税が帳消しにすることを恐れますが、もし、みんながそう思わなければ増税ショックを乗り越える可能性はあると思います」
また、前出・西堀氏は、「国民の気持ちが前向きになれない状況が20年も続いてきましたが、五輪やアベノミクスのおかげでようやく変わってきました。景気は“気”が大事ですから、その意味では非常に大きな効果があったと思います。身近なところでは、都内のシティホテルの稼働率が上がってきており、供給不足になってきました。ただし、五輪後に景気失速の懸念はあります」と、五輪やアベノミクスによる“気”の上昇が消費税ショックを和らげるのではないか、と分析している。
景気を左右する最も大事なものとして、林氏、西堀氏の2人とも“気”(=マインド)を挙げている点には注目しておきたい。加えて西堀氏は、円安進行に伴う景気回復にも注目している。
「1ドル=70円台後半だった昨年末から現在の1ドル=100円近くまで円安が進んだことで、外国人観光客が増え、宿泊や飲食業などは追い風が吹いていると思います。加えて、円安は輸出産業にとって大きな追い風になります。
例えばトヨタは1円円安になると利益が300億円も増加するといわれています。これが5円動いたら1500億円です。自動車産業は裾野が広いため、この波及効果はかなり大きいと思います。
目先の為替相場はアメリカの予算を巡る攻防や債務上限の可否を巡る懸念で円高に傾く局面もありましたが、これは一時的なものだと思います。3~5年という長い目で見た場合、日本の金融緩和や貿易赤字による実需のドル買いなどの要因があるため、円高に過度に振れることはないと考えています」(西堀氏)
たしかに円安が日本経済に及ぼす影響は大きい。特に現在はアメリカが金融緩和の出口を模索しており、近い将来、金融緩和の縮小が実行されるはずだ。そうなれば、アメリカの金利が上昇し、市場はドル買い傾向が強まるだろう。
また、日本は現在、貿易赤字が続いているため、円安に導く材料がそろっている。このように為替のトレンドを予測しやすい状況が続くと、投資の世界ではFX(外国為替証拠金取引)の人気が高まることも予想される。
「FXが花盛りだった2005年の頃は、日米の金利差が大きく、円をドルに換えて保有しているだけでスワップポイント(金利差益)が受け取れ、どんどん利益を生んでいました。それと同じことが今後、起こる可能性があります。
日本が金融緩和を続ける一方でアメリカが金融緩和を縮小すれば、金利に大きな差が生まれ、ドル買いが進むでしょう。そのため、外貨で資産を運用して利益を得るチャンスがくるわけですが、銀行の外貨預金などと比べてコストの安いFXに人気が集まるのは不思議ではないと思います」(西堀氏)
現在、FXの世界では日本市場が最も盛り上がっており、世界のFX取引業者の動向を調査しているFOREX MAGNATES社のFX取引高ランキング(リテールOTC)の調査報告書によると、日本のFXリテール(一般投資家)業界は月間2兆ドル規模にのぼり、世界のリテール通貨取引の約35%を占めている。しかも、同調査報告書の2013年第2四半期取引高を見ると、取引高(売買高)世界1位はGMOクリック証券、2位がDMM.com証券と、日本企業が上位を独占している。
この調査で1位になったのはGMOクリック証券だったが、FX業界では投資家が増えてマーケットの規模が大きくなるにつれ、FX業者間の投資家争奪戦が激化している。これまではスプレッド(買い値と売り値の差額)を縮小するなど、取引コストを中心に激しい競争が繰り広げられてきた。
しかし、最近では、使いやすい取引画面などユーザビリティに勝るFX業者が投資家に好まれ、各社ともユーザビリティを重視。このような状況の中で1位となったGMOクリック証券では、取引コストを抑えるのはもちろん、ユーザビリティを追求し、使いやすさ、抜群の操作性で定評の各種取引ツールを自社で開発している。
なかでも、スマホアプリが人気を博しており、他社をリードしているようだ。同社は株取引についても一定の評価を得ており、FXと株取引どちらのサービスでも上級者から初心者まで、簡単に投資できる環境を整備しているという。
西堀氏の話では、今年度内は株もFXもチャンスがあるという。株式については五輪関連事業の業績寄与度が高い関連銘柄を中心に高値を目指す余地があり、投資するタイミングは早い方がいい、という見方だ。
「年度内くらいは一段上の高値を試すでしょうが、五輪の実施まで一方的に上がるとは思っていません。株価は上がるにしても上がったり下がったり上値を試しながら上がるはずです。五輪の実施に近づくに従って投資は難しくなる局面もあると思います」(西堀氏)
いずれにせよ、中長期的に日本の株価が上昇する見込みはあるようだ。もし個別銘柄を選ぶのは難しいという人は、CFD(差額決済取引)などを利用して、日経225への投資を検討してもいいだろう。CFDとは、FX取引のようにリーズナブルな証拠金で日経225など世界中の株価指数に投資でき、ヨーロッパを中心に取引されている金融商品。昨今では日本の証券会社でも取引が増加しているので、ぜひ注目してみたい。
そうはいっても、五輪終了後には景気が失速する懸念があるという点で、林氏、西堀氏の2人の意見は一致しており、気をつけておきたい。
今年は増えるかどうかわからない給与をあてにするより投資を検討しても良い時期かもしれない。株式もFXも利益をあげるには、人々の“気”を読むことが大事になるが、アベノミクスや五輪の効果を高めるためにも、消費税ショックに負けることなく国民の“気”を高めていくことができれば、日本経済の逆襲が本格的に始まるといえそうだ。