会社に縛られず年収300万円ぐらいで自分の生活を充実させていく「プア充」という生き方を宗教学者の島田裕巳氏が提言し、注目を集めている。とはいえ、それで人並みの豊かな生活ができるのか。
「約344万円」これは、某結婚情報誌が調べた「挙式・披露宴にかかる費用」の全国平均(2012年)だ。年収300万円程度の「プア充」にとっては高いハードルに思えるが、ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子氏は「貧婚」こそ、個人の生活や社会を明るくする手段だと指摘する。
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普段、講演やセミナーで会う20~30代の独身の方々からは「貯金がないから無理」「彼の稼ぎだけで生活できるか不安」など、結婚に関する経済的な悩みを聞くことが多くあります。
実際、厚生労働白書(2013年版)では、結婚への最大のハードルとして「結婚資金」を挙げる未婚者が男女とも圧倒的です。20~30代男性の既婚率を年収別に見ると、年収300万円未満で結婚している人は1割もいません。
しかし、幸せになるには必ずしも高年収が必要というわけではなく、むしろ「年収が低いからこそ結婚して幸せになる」ことができます。単純に考えて、年収200万円同士で結婚すれば世帯収入は倍の400万円。結婚することで、経済的にも精神的にも独身時代より安定します。
「お金がないから結婚できない」と考えている人には、逆に「お金がないからこそ結婚する」“貧婚”をお勧めします。やりくりしてマイホームを購入した、世帯年収300万円の貧婚カップルもいます。
千葉県に住むAさん(23歳)の夫は、月の手取りが18万円。昨年中古で購入したマイホームのローン返済に月2万5000円強。子供2人の幼稚園の月謝や光熱水費、食費など支出は月19万円を超えますが、児童手当が2万円あり毎月貯金ができています。子供が病気やケガをして病院にかかった際の医療費は「子ども医療費助成制度」で無料(助成額や対象となる子供の年齢は自治体ごとに異なる)。
結婚を考えている人の中には、幼稚園入園から大学卒業まで総額2000万円程度と言われる教育費の心配をする方も多いでしょう。しかしこの数字には塾代などが含まれており、学校関連費用に限れば幼稚園から高校まですべて公立なら平均約200万円(文部科学省「子どもの学習費調査」)で済み、これは児童手当の総額とほぼ同じです。
さらに、私立幼稚園などに入った場合は、手続きすれば自治体から「就園奨励費」「保護者補助金」などの助成金を受け取れるケースがあります(名称などは自治体ごとに異なる)。
住宅費も、都市圏で新築マンションや一戸建てを買うのはハードルが高くても、Aさんのように郊外の中古住宅を選べば負担は少ない。来春には、住宅ローン減税のメリットが少ない低所得者向けに「すまい給付金」制度(*注)が始まる予定です。賃貸住宅なら、家賃が安く年収に応じて補助が出る公営住宅があります。
貧婚で幸せになったカップルたちは、公的助成を利用するだけでなく、親類や友人・知人のネットワークを活かして食料品や衣類などをタダ同然で譲ってもらうなどして生活費を節約しています。お金だけに頼らず生活しているAさん一家のような暮らしぶりを聞くと、あるもので満足し、日々の暮らしを丁寧に楽しんでいると感じます。コツは、他人と比べないことだと思います。
【*注】消費税率の引き上げによる住宅取得者の負担緩和のために導入予定の制度。消費税率8%時は年収額の目安が510万円以下で10万~30万円。10%時は同775万円以下で10万~50万円が給付される。
※SAPIO2013年11月号