1997年8月、交通事故により36才で亡くなったダイアナ元英皇太子妃。その名は今なお色あせず、今年7月に世界を駆け巡った英国のロイヤルべビー誕生ニュースの際にも、ダイアナの名は紙面を連ねた。世界で最も有名で、最も愛され、最も傷ついた英国のプリンセスを初めて描いた映画『ダイアナ』が10月18日に公開される。夫の不倫や王室との確執への悩み、マスコミとの攻防、心臓外科医との愛、世界を変えようと人道支援に取り組んだ、知られざるダイアナの姿を描いている。メガホンをとったドイツ人監督、オリヴァー・ヒルシュビーゲル氏に、ダイアナが今なお支持を集め続けている理由を聞いた。
――ダイアナ妃は生前も絶対的アイコンでしたが、なぜ亡くなって16年経つ今なお、これだけの支持を集めると思いますか?
オリヴァー監督:どの時代でもアイコンと呼ばれる人、例えばマレーネ・ディートリッヒ、マリリン・モンロー、そしてダイアナもそうですが、共通しているのは、公の場でのずば抜けたキャラクターを持っていたということ。それに加えて、触れることができそうな親近感や人間性を持ち合わせている人ばかりです。
アイコンと呼ばれるステータスになった方には、ただずば抜けて才能やスター性があるだけではないんです。同時に、自分の脆さやダークなところも見せる力量もまた必要です。そこにこそ人は共感するわけです。人間的な脆さや弱さを持っていて、すごくくだらない失敗を犯したりもする。しかもそれを認めることができる。そういう人間らしさで共感させることができる人がアイコンとして、時間が経っても記憶の中にいつまでも残っていくのです。
今回、ダイアナのリサーチを重ねる中で知ったのは、彼女がとてもスピリチュアルな人間であったということなんですね。それは言い換えれば“人と通じることができる能力”であり、これはぼくの解釈なんだけど、ちょっとヒーラー的な“癒す力”をすごく持っていた方だったのではないかと思います。誠実で、心からの無垢な思いやりを発して、それを人に伝え、共感させることができた。
だからこそ、ダイアナが人道支援活動で世界を飛び回る中で、誰かの手をとっている写真だったり、あるいはカメラに向けられたまなざしひとつに、見ている人はスピリチュアリティを感じてグッと惹きつけられるのではないかなと考えています。その“無垢さ”というのは、ぼくの知る限りの仏教はその境地を求めるものであり、とてもスピリチュアルと言われている人はみんな持っている資質なんですね。彼女にもそれが備わっていた。だからこそ、日本やアフリカといった他国でも英国と同じように愛された。これは普通では考えられないことです。
――監督ご自身、当初はあまり興味を持っていなかったものの、ダイアナを知る程に魅了されていったということですが、監督から見たダイアナの魅力とは?
オリヴァー監督:そもそも興味がなかったというよりは、彼女のことをよく知らなかったので、脚本を読んで、今お話したスピリチュアリティなどの面も含め、こんなにいろんな面があるということに驚きました。心臓外科医との恋愛のことももちろん知らなかったし、亡くなるまでの最後の2年間を含めて、自分の道を身失った時期があったり、深い孤独を感じていたことを知って驚いた。それこそ映画の中で触れている地雷撤去活動などの人道的な活動についても詳しく知らなかった。知的でユーモアのセンスがあったということなど知らないことばかりで、リサーチを深めていく中でどんどん魅了されていったのです。
――ダイアナを嫌う人、支持しない人もいるのでしょうか?
オリヴァー監督:ぼくが聞いたのは、英国では嫌っている人もいて、ダイアナをあまり印象良くないと思っている人は、まだ結構いるんですよ。でも他国では嫌われないのかなと思いますね。その理由は、ぼくが思うに彼女は傑出した女性ではあったし、と同時に、人には誰しも備わっている物事を察知する能力があるからです。
それは先ほど“スピリチュアリティ”と表現したものになりますが、そういう感情レベルでの知性によって、感覚的に“この人はすごい”と察知することができる。例えば、“この人は今、嘘をついてる!”とか、“この人は真心がある”とわかるように、オープンでいられて人間性があり、思いやりもあり、他の人と違う能力がある人というのは、お会いすればわかりますよね。その察知する能力のことを、人はくだらないと片付けがちだけど、知的な働きもするわけです。彼女の場合もそうで、この人は特別だとみんなに察知させるものがあるから、こんなに愛されていると思います。
『ダイアナ』
世界で最も有名なプリンセスとして英国のみならず、世界各国の人に愛されたダイアナ。その裏で、夫と別居、ふたりの王子とも離れて寂しく暮らし、深い孤独を感じていた。そんな中、出会った心臓外科医との愛。ふたりを追いかけるゴシップ誌の過熱報道。王室との確執。離婚したダイアナは、弱き者を救うために世界中を飛び回り、人々を癒し、政治を動かす力をも持ち始める――1997年に交通事故で亡くなるまでの2年間、ダイアナの孤独、愛、活動…知られざる真実のダイアナを描く感動の物語。10月18日、全国ロードショー。