9月8日にブエノスアイレスで行なわれたIOC総会。その場で安倍晋三首相は、福島原発問題は「アンダー・コントロール」と自信を持って言い切った。だが、その後も汚染水漏れ問題は解決していない。安倍首相とは一体どんな人物なのか。大前研一氏が解説する。
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昨年末の発足から3四半期が過ぎ、“安倍政権の本質”が透けて見えてきた、と私は思う。第一は「証拠もないのに言い切る」という安倍首相の傾向だ。東京電力・福島第一原子力発電所の汚染水漏出問題は、その典型だ。
安倍首相は五輪招致の最終プレゼンテーションで、汚染水について「完全にコントロールされています」と世界に宣言した。しかし、あれはコントロールできない。なぜなら、毎日400トンも湧き出てくる地下水をどうやって放射性核分裂生成物と接触しないようにするかという問題は「直ちに何とかしなければならない」が、それを抜本的に解決する工事を行なうには放射線レベルが高すぎて「2~3年は無理」だからである。
しかも、港湾内は外洋と完全に仕切られておらず、汚染水を封じ込める構造にはなっていない。その改良工事計画は出ているが、完成は2年後という大工事だ。
つまり、実際の状況は「アンダー・コントロール」ではなく、「アウト・オブ・コントロール(制御不能)」なのに、平気で言い切って、省みることがないのだ。東電の廣瀬直己社長が「私も安倍さんと同じ理解です」と、直接自分の意見を言うのを避けたほどである。
安倍首相は経済問題も明るく言う。私が提唱している「心理経済学」の観点からすれば、国民の心理を明るくするのは景気浮揚につながるから良いことだが、日本経済には本質的で構造的な問題がある。
2020年の東京五輪にしても、新聞やテレビが「3兆円の経済効果」と囃し立て、多くの人が「これで景気が良くなる」と期待しているが、五輪開催で景気が良くなるのは途上国の現象だ。今の日本のような成熟国では、競技場や選手村、交通網などを整備する公共工事に税金を注ぎ込んだ分だけの経済効果しかない。要するに安倍首相は、明るい話をして、そのアナウンス効果で景気浮揚を図っているにすぎないのだ。
※週刊ポスト2013年10月25日号