安倍政権が臨時国会で成立を目指している「特定秘密保護法案」。これは国民の“知る権利”を奪う言論弾圧につながる危険があるとジャーナリストの武冨薫氏が指摘する。
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特定秘密保護法案について、日本弁護士連合会特定秘密保全法制対策本部事務局次長の齋藤裕・弁護士は次のように警鐘を鳴らす。
「一番危険なのはこの法案には独立教唆の考え方が採用されていることだ。たとえば特定秘密が何か分からない記者が、原発事故に関して担当の役人に、『何が起きているのか教えてほしい』と聞いたとする。結果的に断わられても、その案件が特定秘密に関する事項であれば、情報漏洩を教唆したとして逮捕される可能性がある」
過去、第一次安倍政権下の「消えた年金問題」や菅内閣の原発事故情報の隠蔽問題、古くは薬害エイズ問題など多くの重大事が官僚リークや議員の国政調査権で明らかにされ、メディアの報道や国会追及につながって国民の知るところとなった。
しかし、法案成立後は政府が隠す特定秘密に記者が接近するだけで「逮捕」されることになる。政府に批判的な記者やジャーナリストを狙い撃つのも容易だろう。国家が情報を管理する中国や北朝鮮と同様の前近代的な言論統制社会となる。
自民党は小泉政権時代に閣僚らの年金未納問題発覚で厳しい批判を浴び、「社会保険庁の職員が野党に秘密を漏らした」と犯人捜しに血道をあげ、記録を閲覧していた職員3700人を大量処分した。
それが役人の反発を買い、次の第一次安倍内閣は消えた年金問題のリークで追い打ちを掛けられ、退陣に追い込まれた経緯がある。安倍政権にとってこの法案は、報道機関を監視し、「政府内からの政治家の個人情報漏洩を防ぐ」(自民党幹部)という意図を秘めたスキャンダル発覚防止法でもある。
※SAPIO2013年11月号