紅葉が見ごろを迎える季節の必需品といえばカメラ。最近では、わざわざ大きくて重い一眼レフを担がなくても、スマートなミラーレス一眼、コンパクトデジカメ、あるいはスマホについているカメラ機能でも十分鮮やかな景色が撮影できる。
だが、スマホの急速な普及は、カメラ業界にとっては脅威となっている。
カメラ映像機器工業会(CIPA)の統計によれば、2012年のコンパクトデジカメなどレンズ一体型カメラの総出荷数量は、前年より2000万台以上減らして7798万台。今年はさらに2~3割程度落ち込むと危惧されている。
「高額消費の傾向で、15万円以上する本格一眼レフやミラーレスカメラの販売はまずまずですが、お客さんの反応が薄いのがコンパクトデジカメ。一眼レフに負けない高性能で価格も5万円を切る機種がたくさんあるのに、売れ行きはさっぱり。やはりスマホで写真を撮る人が増えているからでしょうね」(大手家電量販店)
そんな消費者ニーズをつぶさに捉えて、カメラ業界に旋風を巻き起こしているのがソニーだ。
10月16日にも小型軽量なミラーレス一眼カメラ「α(アルファ)7」や、大口径ズームレンズ搭載のデジカメ「サイバーショットDSC―RX10」を発表(発売は11月15日)したばかり。とにかくカテゴリーにとらわれずに新製品を次々と投入している。
なぜソニー製カメラが注目を浴びているのか。IT・家電ジャーナリストの安蔵靖志氏が解説する。
「フィルム時代からの古いカメラファンは、キヤノンやリコーのように昔からレンズをつくっている光学機器メーカーの製品しか信頼しないという人は多い。そういう人たちにとって、ソニーはあくまでエレキメーカーなので毛嫌いしているんです。
でも、デジタル機器の好きな若い世代は、ソニー製のカメラにむしろバランスの良さを感じている。カメラを一振りすればパノラマ写真が撮れる『スイングパノラマ』や、画像の重ね合わせにより手ブレ補正ができる『3方向手ブレ補正』機能など、先進的な技術をいち早く取り入れています。光学機器メーカーでは技術屋のプライドが邪魔して、そんな自由な発想の機能や製品が出てきませんからね」
いかにカメラを使って新しいライフスタイルを提案するか――。低迷するカメラ業界に突き付けられた課題に、もっともチャレンジ精神を見せたのがソニーだったということか。
レンズ部のみの斬新な形で、スマホに取り付けて使うこともできるレンズスタイルカメラ「DSC―QX100」の発売(10月25日予定)はその象徴だ。
「Wi―Fiと連動させることにより、スマホに取りつけなくても遠くからリモート撮影できるのが特徴。この機能は以前からデジカメに搭載されていましたが、一般の人には広く知られていませんでした。
ここまでQXシリーズが発売前から話題になっているのは、あのスタイルだから。他メーカーにはないワクワク感、先鋭感があってこそ、多くの人が認識しているソニー製品の姿。そういう意味では、ソニーの独創性が復活したのかなと思わせるほどのインパクトはありますね」(前出・安蔵氏)
大手電機メーカー幹部は、近ごろのソニーをこう評価している。
「平井(一夫)社長がトップになって以降、組織が若返った印象がある。『変わらなきゃ』というマインドは多くのソニー社員が持っていて、実際に変わろうと動き出している結果が、カメラの新製品にも表れているのではないか」
10月末から始まる各社の中間決算発表。長らく苦境に喘いだ電機メーカー各社の数字はかなり改善しているものとみられる。ソニーも今こそ真価を発揮しなければ、V字回復の軌道は心もとない曲線になっていくだろう。