日本シリーズが終わると、日本のプロ野球は来季の新人獲得のためのドラフト会議一色になる。甲子園や社会人野球で活躍し、意気揚々とプロ入りする彼らのうらで野球界を去る男たちがいる。ドラフト1位で巨人に入団し、いまは横浜で用具係をつとめる入来祐作を、作家の山藤章一郎氏が追った。
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巨人→日ハム→米球界→横浜と移り歩いた入来祐作は、横浜スタジアムの本塁付近で、ネットとボールを運んでいた。
通算215試合登板。35勝35敗。防御率3.77。いま41歳。DeNAで〈用具係〉を務めている。破れたネットを「漁師のオヤジみたいに縫い直し」、練習ボール、打撃ケージや防御ネットを準備するために、選手より2時間早くグランドに来る。試合後は、選手のユニフォームをクリーニングに出すランドリー担当者との打ち合わせまである。
ドラフト1位で巨人入団。豪快なフォームから150キロのストレートを闘志むきだしで投げた。躍動感あふれる投球スタイルは多くの人に感動を投げこんだ。
午後2時半のスタジアム。球場職員が、ケージ、トスバッティング用のネットを運んでいる。彼らの指揮を執るのが〈用具係〉である。ひとりふたりに声をかけたあと、みずからも運ぶ。
「用具係? そんな仕事があるのも知らなかったです。ぼくひとりでやってます。グラブ、バット、スパイクの納品数を確認し、打撃ケージや防御ネットを準備し」
米球界から帰って横浜の入団テストに合格。開幕戦一軍入りを果たし、3試合に登板した。だが、結果が残せず、オフに引退。
「用具係への抵抗、むちゃくちゃありました。最初は〈バッピ=バッティングピッチャー〉をやってたんですが。いやでいやでしょうがなかった」
現役は、相手に打たれないように投げる。バッピは、相手に合わせて打たせる。真逆である。
「だめだ。無理だ。やめよう。諦めかけたときに、〈用具係〉にと手を差し延べてもらいました」
入来は、兄・智も元巨人の投手。そろって活躍した。
「いまだに四苦八苦している兄を見ているので、こんな仕事も頑張れるのだと思っています。給料? 劇的に下がりましたよ」
兄は故郷・宮崎県都城に帰り、コンビニに勤め、いま手づくり弁当屋〈かかし亭〉のオーナー。
※週刊ポスト2013年10月25日号