ビジネス

岩波書店の採用基準 縁故採用のメリット考える重要なケース

 日本では政界、官界、財界のトップ人事から、学生の就職活動戦線まで、日本社会ではあらゆる場面に「コネ」という“見えざる力”が働いている。コネについて嫌悪感を持つ日本人は多いが、一方で企業の人事担当者からは、「コネ採用は得意先との関係を良好にするためだけでなく、優秀な人材を獲得するための有効な手段」という声も聞こえてくる。

 縁故採用のメリットを考える上で、重要なモデルケースとなるのが、昨年、物議を醸した岩波書店の採用基準だ。

 同社は2013年度入社社員の募集要項に「岩波書店著者の紹介状あるいは岩波書店社員の紹介があること」という一文を明記した。

「コネのある学生とコネがない学生の間にハンデが大きすぎる」
「不平等だ。縁故採用を正当化していいはずがない」

 と学生たちからの不満が相次ぎ、小宮山洋子・厚生労働相(当時)も調査に乗り出した。

 しかし、同社がこの基準を打ち出すことで狙ったのは、「縁故の有無」ではなく「学生の熱意や意欲を把握すること」だった。

 どうしても入社したい、と希望する学生は著者の元を訪ね、紹介状を書いてもらうように説得すればいい。ゼミの先生などに頼んで、在籍する大学から著書を出している教授・研究者を紹介してもらう手もある。

 編集者という仕事の基本は、作家や著名人を口説いて執筆を依頼するというものだ。著者を訪ね、紹介を頼むことはまさにその雛形といえる。この手間を惜しむようでは、運良く入社できたとしてもその先の活躍は見込めない。最終的に厚労省が岩波書店の採用基準に「問題ではない」との判断を示したのは常識的な判断だったといえるだろう。

 某メーカーの人事担当者がいう。

「今の学生はネットでエントリーシートを提出して、パソコンの画面を開いて書類審査や面接通過の知らせを待つという風に、とにかく受け身。ですが、実際の仕事というのはそんなものじゃない。社会に出れば、たとえば新規取引先を開拓してくるなど、自分で“コネ”を作っていく能力が常に求められる。実際に足を使って動いたり、人と会おうとしないで不平不満ばかりをぶちまけるのは単なる甘えです」

※週刊ポスト2013年10月25日号

関連記事

トピックス

自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《中山美穂さん死後4カ月》辻仁成が元妻の誕生日に投稿していた「38文字」の想い…最後の“ワイルド恋人”が今も背負う「彼女の名前」
NEWSポストセブン
工藤遥加(左)の初優勝を支えた父・公康氏(時事通信フォト)
女子ゴルフ・工藤遥加、15年目の初優勝を支えた父子鷹 「勝ち方を教えてほしい」と父・工藤公康に頭を下げて、指導を受けたことも
週刊ポスト
山口組分裂抗争が終結に向けて大きく動いた。写真は「山口組新報」最新号に掲載された司忍組長
「うっすら笑みを浮かべる司忍組長」山口組分裂抗争“終結宣言”の前に…六代目山口組が機関紙「創立110周年」をお祝いで大幅リニューアル「歴代組長をカラー写真に」「金ピカ装丁」の“狙い”
NEWSポストセブン
「衆参W(ダブル)選挙」後の政局を予測(石破茂・首相/時事通信フォト)
【政界再編シミュレーション】今夏衆参ダブル選挙なら「自公参院過半数割れ、衆院は190~200議席」 石破首相は退陣で、自民は「連立相手を選ぶための総裁選」へ
週刊ポスト
中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
Tarou「中学校行かない宣言」に関する親の思いとは(本人Xより)
《小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」》両親が明かす“子育ての方針”「配信やゲームで得られる失敗経験が重要」稼いだお金は「個人会社で運営」
NEWSポストセブン
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波も(マツコ・デラックス/時事通信フォト)
『月曜から夜ふかし』不適切編集の余波、バカリズム脚本ドラマ『ホットスポット』配信&DVDへの影響はあるのか 日本テレビは「様々なご意見を頂戴しています」と回答
週刊ポスト
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン