国内

消費増税と法人税率引き下げ 個人VS企業の対立問題ではない

 消費税率の引き上げと並行して議論されているのが法人税率の引き下げだ。安倍首相が前向きに検討しているとされる。この話は、批判的な人たちからはすぐ「弱い個人の負担は重くする一方で、強い企業の負担は軽くするのか」といった声があがる。しかし、その短絡的な見方は的を射ていない。
 
 以前から、日本の法人税率は高いので国際競争上不利との指摘があった。現に、グローバルに事業展開している企業では、アジア事業の拠点を東京からシンガポールや香港などに移す動きがある。法人税率を見れば、日本が38%(国税と地方税の合計。現時点では復興法人特別税を含む)に対し、たとえばシンガポールは17%。
 
 これだけの違いがあれば、企業が日本から出ていく要因になるのも無理はない。事業拠点が国外に移ると最も困るのは、国内で雇用機会を奪われる人たちだ。そうして日本経済が縮小していけば、税収は「金額(法人税や所得税なら所得、消費税なら消費)」×「税率」だから、いくら税率を高くしようと税収は減り、財政は悪化する。
 
 個人VS企業などという対立構図の問題ではない。
 
 ただし、「法人税率が高い」と指摘される中で、すべての法人が高い法人税を払っているわけではない。日本には制度として法人税が原則かからない法人が存在する。例えば、以下のような法人だ(括弧内はその数)。
 
◆公益社団法人・財団法人(約2万8000=制度移行中の法人を含む)
◆学校法人(約8000)
◆社会福祉法人(約1万9000)
◆宗教法人(約18万2000)
◆NPO法人(約4万8000)
 
 なぜ「法人」なのに「法人税」がかからないかというと、法人税法の規定上、「公益法人等」は収益事業を行なう場合を除き、法人税を納める義務はないと定められているからだ(左の囲み記事の条文を参照)。「公益法人等」とは法人税法の別表で定められていて、学校法人や社会福祉法人が含まれる。

 これら法人はそれぞれ、公益事業、学校事業、社会福祉事業といった、いわば本業をやっている限り、法人税は一切かからない。ただし、たとえば公益法人がホテル経営をするなど、副業として収益事業も行なう場合は、その部分についてだけ税金がかかるという仕組みだ(とはいえ、学校法人や社会福祉法人などの場合、収益事業に関しても税率が軽減される)。

文/原英史=政策工房社長

※SAPIO2013年11月号

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