ビジネス

米国内でも独特の生態系が出現したシリコンバレーが一人勝ち

 アメリカ西海岸のサンフランシスコも含めたベイエリア、シリコンバレーはなぜ、いまなお世界最先端の企業を輩出しているのか、成長企業の在り方を改めて考える大前研一氏が解説する。

 * * *
 今、私は改めて21世紀のエクセレントカンパニーの条件、成長企業の在り方を考えている。手始めに、今なお世界最先端の企業を輩出しているシリコンバレー(サンフランシスコも含めたベイエリア)を中心にアメリカ西海岸で現在進行している現象を分析したい。

 シリコンバレーで生まれたアップル、グーグル、ヤフー、シアトルを拠点とするマイクロソフト、アマゾンなど、アメリカ西海岸のIT・ネット企業が世界を席巻している。私は日本の経営者から「日米の差はどこまで広がるのか」「なぜアメリカのIT・ネット企業はすごいのか」と質問される。だが、実は「日米の差」ではない。アメリカでもシリコンバレーやシアトルだけが特別なのだ。

 かつてはハイテク産業が栄えたボストンのルート128沿線やAOL(アメリカオンライン)があったワシントン郊外などの東海岸も、リサーチ・トライアングルのノースカロライナ、ミニ・シリコンバレーと言われたテキサス州オースチンやコロラド州デンバーといった地域も、全く追いつけない状況になっている。つまり、今やアメリカ国内でもシリコンバレーの“一人勝ち”なのだ。

 シリコンバレーの優位性は「エコシステム」にある。これは、複数の企業が商品開発や事業活動などで手を組み、業界の枠や国境を超えて広く共存共栄していく仕組みのことで、日本語に訳せば「生態系」だ。つまり、世界でもシリコンバレーだけに独特の生態系が出現したのである。

 私は2000年に英語で『THE INVISIBLE CONTINENT(見えない大陸)』を上梓した(日本語版の『新・資本論』は2001年出版)。その中で予言した「デジタル新大陸」が、まさにシリコンバレーで出来上がりつつあるのだ。

「新大陸」の生態系の中で新たな企業が誕生し、そこの水と空気で成長して合体していくというイメージを描けば、わかりやすいだろう。もはや個々の技術や個々のハードウエアや個々の企業が良いとか悪いとかの問題ではなく、日本とシリコンバレーでは、そもそも生態系が違うのである。

 それはちょうど第二次世界大戦において、日本が当時の世界で最も高性能な戦闘機「零戦」を開発したり、史上最大の戦艦「大和」「武蔵」を建造したり、世界一正確な照準器を作ったりしてハードウエアの優位性を追い求めたのに対して、アメリカやイギリスが「オペレーションズ・リサーチ」(数学的・統計的モデルやアルゴリズムなどを利用して最適な解を導き出す科学的技法)によって勝てる布陣や兵站、攻撃方法などを研究し、ハードウエアではなくシステムで日本を圧倒していったのと似ている。

 すなわち、このままいくと日本勢は、今も増殖を続けているシリコンバレーの生態系に根こそぎ淘汰されてしまうかもしれないのだ。

 私はしばしば日本の経営者に、どうすればシリコンバレーの繁栄を自分の会社に取り込むことができるのかと聞かれるが、方法は二つしかない。向こうの会社を買うか、向こうの会社と提携して日本から社員を送り込むか、である。そうやって自らシリコンバレーの生態系の中に入っていかなければ、これから日本企業が世界の市場で生き残っていくのは難しいと思う。

※週刊ポスト2013年11月1日号

関連キーワード

トピックス

主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
《沈黙続ける折田楓社長》「朝、PR会社の方から直接連絡がありました」兵庫県HPから“同社記事が削除された理由”
NEWSポストセブン
犬猿の仲といわれていた織田裕二と柳葉敏郎
織田裕二『踊る』スピンオフ『室井慎次』にこっそり出演 「柳葉さんがやるなら…」と前向きに検討、確執は昔の話 本編再始動への期待も高まる
女性セブン
谷川俊太郎さん(右)への思いを語った中島みゆき(左)(事務所の公式HPより、右は共同通信社)
中島みゆきが独占告白「本当に星になっちゃった。でも星は消えないですから」言葉の師と尊敬する谷川俊太郎さんとの別れ、多大な影響を受け大学の卒論テーマにも選択
女性セブン
ともに二世落語家という共通点も(左から三遊亭王楽、林家正蔵)
【過去に確執も手打ちか】三遊亭王楽「七代目円楽襲名披露興行」に父・好楽の“因縁の相手”林家正蔵が出演で落語界も騒然
週刊ポスト
主張が食い違う折田楓社長と斎藤元彦知事(時事通信フォト)
《慶應SFC時代の “一軍女子”素顔》折田楓氏がPR会社を創業するに至った背景「女子アナ友人とプリクラ撮影」「マスコミ志望だった」
NEWSポストセブン
SNS上だけでなく、実生活でも在日クルド人への排斥デモやヘイトスピーチが目立つようになっている(店舗SNSより)
「日本人は大好きだけど、もう限界です…」『ハッピーケバブ』在日クルド人の社長が悲鳴、親日感情をへし折る\\\\\\\"ヘイト行為\\\\\\\"の実態「理由もないのにパトカーを呼ばれて…」「脅迫めいた電話が100回以上」
NEWSポストセブン
騒動の中心になったイギリス人女性(SNSより)
《次は高校の卒業旅行に突撃》「1年間で600人と寝た」オーストラリア人女性(26)が“強制送還”された後にぶちあげた新計画に騒然
NEWSポストセブン
折田氏(本人のinstagramより)と斎藤知事(時事通信)
《折田楓社長のPR会社》「コンペで5年連続優勝」の広島市は「絶対に出来レースではありません」と回答 斎藤知事の仕事だけ「ボランティア」に高まる違和感
NEWSポストセブン
中井貴一
中井貴一、好調『ザ・トラベルナース』の相棒・岡田将生の結婚に手を叩いて大喜び、プライベートでゴルフに行くほどの仲の良さ 撮影時には適度な緊張感も
女性セブン
東北楽天イーグルスを退団することを電撃発表し
《楽天退団・田中将大の移籍先を握る》沈黙の年上妻・里田まいの本心「数年前から東京に拠点」自身のブランドも立ち上げ
NEWSポストセブン
妻ではない女性とデートが目撃された岸部一徳
《ショートカット美女とお泊まり》岸部一徳「妻ではない女性」との関係を直撃 語っていた“達観した人生観”「年取れば男も女も皆同じ顔になる」
NEWSポストセブン
折田楓氏(本人のinstagramより)
《バーキン、ヴィトンのバッグで話題》PR会社社長・折田楓氏(32)の「愛用のセットアップが品切れ」にメーカーが答えた「意外な回答」
NEWSポストセブン